2023/06/22 コラム
「懲戒解雇」=解雇予告手当不要?
労働事件に関するご相談の中で、「懲戒解雇についての会社感覚と実務のズレ」を感じることがあります。今日は、その点についてご紹介します。
(視点1)懲戒解雇のとき、解雇予告または解雇予告手当の支払いは必要か?
従業員を解雇する場合は、懲戒解雇であったとしても、原則、解雇予告、または解雇予告手当の支払いが必要です。
労働基準法では、従業員を「解雇」するときは、原則として解雇日の30日前までに、解雇することを従業員に通知しなければならないと定めています。もし、30日前までに解雇予告ができない場合は、従業員に30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません(法20条1項)。
この「解雇」には懲戒解雇も会社都合解雇も含まれます。条文の文言上区別がないからです。懲戒解雇であっても解雇予告手当等の規定が適用されるということは、しっかり押さえておきましょう。
(例外)支払い不要の「解雇予告除外認定」
ところが、懲戒解雇が「労働者の責に帰すべき事由」(法20条1項但書)に基づく場合は事情が変わってきます。会社は労働基準監督署の「解雇予告除外認定」を受けることで、解雇予告をすることもなく、解雇予告手当を支払うこともなく即時に従業員を解雇できるようになります。
解雇予告除外認定を受けずに即時解雇をしてしまうと、労働基準法違反となりますので、注意してください。
(注意点)「労働者の責に帰すべき事由」とは?
ここで落とし穴があります。「懲戒解雇なのだからすべて『労働者の責に帰すべき事由』なのではないか?」と思いがちです。
しかし、実務ではこれを限定解釈します。「労働者の責に帰すべき事由」とは、労働者を保護する必要がないほど重大、または悪質な行為を指します。各会社が定めている懲戒解雇事由に該当するかどうかは問いません。厚生労働省のリーフレットでは、具体的に以下のようなケースを例示しています。
ア 原則として、極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑事犯に該当する行為のあった場合、また一般的にみて「極めて軽微」な事案であっても、使用者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなお労働者が継続的に又は断続的に盗取、横領、傷害等の刑法犯又はこれに類する行為を行った場合、あるいは事業場外で行われた盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為であっても、それが著しく事業場の名誉もしくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合。
イ 賭博、風紀の乱れ等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合。また、これらの故意が事業場外で行われた場合であっても、それが著しく事業場の名誉もしくは信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合
ウ 雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合
エ 他の事業場へ転職した場合
オ 原則として二週間以上正当な理由もなく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
カ 出勤不良又は出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合
これをみると「1週間の無断欠席」だけでは、懲戒解雇の除外認定は無理そうですよね。
くれぐれも、「懲戒解雇だから、当然に解雇予告手当は不要」とは思わないようにしましょう。
次は、懲戒解雇とハローワークの離職票との関係を述べたいと思いますが、それはまた次の回で。
(遠藤浩紀)