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2023/11/16 お知らせ

フランス革命への招待

 弁護士会の有志が、人権思想の原点を探る、という口実でメンバーを募り、ミュージカル「バスティーユの恋人達」を観に行ったとか。勉強会というと堅苦しいものになりがちですが、たまにはこういう粋な勉強もいいですね。

 もともと私、原作の「ベルサイユのばら」ファンでした。高校ではその影響で世界史を選択し、大人になってからも「ベルばら検定」なる試験まで受け、2級に合格しております。男として育てられ、男として生きることで女性の人生の枠を超えようとした主人公オスカルの生き方に、当時の日本の女性達の、ジェンダーの枠を超えたい、という情熱と、その枠を超えることはイコール男性化である、という、発想の限界を見る思いがします。30年ほど経過して、河惣益巳さんの漫画作品に至ると、西洋歴史物作品でも、女性は女性の姿のまま活躍する設定になってきますね。こうした少女マンガヒロイン像の変化は、漫画家個人の価値観を反映しているのは当然ですが、その背景事情として、「少女の憧れる、生き生きした女性像ってどんなもの?」という社会の価値観を色濃く反映するものなのでしょう。

 「ベルサイユのばら」は、フランス革命を取り扱った作品ですが、この作品に出逢ったおかげで、フランス革命に強い興味を持って勉強するようになりました。フランス革命を俯瞰して、最も興味深いと思うのは、おそらく世界史上、最も真面目で、最も私利がなく、最も真剣に国民の幸せというものを考えたであろう政治家、ロベスピエールが、ギロチンで国民を押さえ込む、血みどろの独裁に陥ったことの皮肉です。ロベスピエールを信奉していた若手政治家サン・ジュスト、若くて、恐ろしいほどの美貌で、しかも果断速攻の行動力だったそうですが、「ロベスピエールさんは正しい人なのだから、彼に政治権力を独占させるのは正しいことなのだ」と、ひたすらに突き進んだのが、皮肉な結果の大きな要因だったようです。佐藤賢一さんの「小説 フランス革命」には、こうした過程が、その時代を見ているように生き生きと書かれ、ぞくぞくする面白さですので、興味のある方はぜひお読み下さい。ともあれ、政治家という方々は、理想ばかり追い求めて一点の汚れもない、というのでもよろしくないようです。だからといって、あまりに理想がなく、汚職まみれでも困りますね。今の私たちが手にしている選挙というものは、フランス革命以降、いろいろな失敗や間違いによる犠牲の下に築かれた制度です。皆で、極端すぎず、汚すぎない政治家を選んでいける優れた制度なので、「信じられる政治家がいない」と言わずに投票に行きましょう。政治家に関しては情熱的に「推せ」ればいいってものではありません。サン・ジュスト氏がそれを証明しています。

(上野奈央子)

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