コラム

2024/02/18 コラム

労働者性について(その給与、完全歩合制でいいのですか?)

 私は、労働局に勤務していた時、労働保険徴収課で、労働保険の未手続事業所の調査や、労働保険の加入指導をしていたことがあります。
 事業所によっては、労働者を労働保険に加入させないケースや、あえて業務委託契約を締結し労働者を個人事業主として扱ったりするケースがありました。
 このような事業所に対して、「行政調査」として、調査に入ったりしました。

 なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
 従業員が「労働者ではない」となると、労働保険、健康保険に加入させなくて済み、経費削減となるわけです。
 逆に、労働者にとっては、退職時に失業給付が受給できない、怪我をしても労災が受給できないなどのデメリットが生じてしまいます。また残業代がもらえないといった影響がでることになります。
 このような事実は、労働者からの通報(いわゆるタレコミ)で、把握されることも少なからずありました。
 ちなみに、行政調査に入ると、法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、タイムカード)等を確認することになります。

1 では「労働者」とは何か?
 労働者が、失業給付や労災を受給するためには、その前提として労働基準法上の「労働者」と認められる必要があります。労働基準法の適用を受ける「労働者」とはどのような基準で決められるのか、という点について説明します。

 労働基準法にいう労働者とは、「使用者から使用をされ、労務に対して賃金を支払われる者」とされています。
 すなわち、⑴「指揮監督下の労働かどうか」、⑵「報酬に労務対価性があるかどうか」が基準になります。

⑴ 指揮監督下の労働(「使用」されている)かどうか
 まず、「使用」されているかどうかについては、以下の点が考慮要素と考えられています。
① 仕事の依頼に対する諾否の自由があるか
 労働者は上司からの業務指示で働くことになります。基本的にはこの業務指示を拒否できません。もし、仕事の諾否を自由に決めることができると、一般的な使用関係とは異なると思われますので、使用性は弱くなります。
② 指揮監督の有無
 前述のとおり、労働者は、上司からの指揮命令で働くことになります。指示を受けずに業務の遂行ができる場合、使用性は弱くなります。
③ 勤務時間や場所の拘束があるか
 労働者なら、出勤時間や出勤場所が決められているはずです。もしこの拘束が無いのなら、使用性は弱くなります。
④ 他人による替えが効くか
 会社なら、その人の個性を踏まえて仕事を割り振ったりしているはずです。つまり個性が重視されています。もし、他人による替えが効くとなると、一般的な使用関係(会社における労働者の配置)とは異なりますので、使用性は弱くなります。

⑵ 報酬に労務対価性があるか(「賃金」を支払われているか)どうか
 「賃金」性については、「報酬の労務対償性」、つまり労務との対応関係が重要です。すなわち、提供した労務の長さに応じて報酬が決まるような場合には、一般的な雇用関係と近いものとなります。もっとも、報酬の支払い方は事業主側で自由に決められる要素です。報酬の労務対価性は、使用従属性を補強する要素になるでしょう。

⑶ その他に考慮される要素
 上記の要素のほか、下記の項目も要素として考慮されます。
①機器・器具の負担関係(機械をどちらが負担するかなど)
②専属性の程度(他社の業務を行う余裕があるか)
③源泉徴収、社会保険料負担の有無
 これらは労働者性を考える上で強い要素ではありませんので、補強要素と考えることもあります。

 上記のように、労働者性は多くの要素が加味した上での総合判断となります。
裁判例等は非常に多く、肯定例・否定例いずれも多数存在します。
 ちなみに、これらはすべて、「実態はどうか」で判断されます。いくら契約書が「業務委託契約」と書いてあっても関係ありません。
 そのため、契約書上は業務委託とされているけど、本当は労働契約かも、とお考えの方は、一度、専門家の意見を聞くことをおすすめします。

 

(遠藤浩紀)

 

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