高齢者が訪問販売で高額な商品を買ってしまった場合~クーリングオフ制度
私の実家の母(八六歳)は、父が亡くなった後、都内で一人暮らしをしています。たまたま私が実家へ行ったところ、今までなかった羽毛布団や浄水器がありました。
更に、テーブルの上には、数日前の日付の羽毛布団と浄水器のクレジット販売契約書がありました。母が言うには、羽毛布団は、親切そうな女の人が訪ねてきてくれて、「今使っている布団は、湿気っているし、ダニだらけだから、健康に良<ない。」と言われ、「高いからいらない。」と言っても、「クレジットなら月々の支払いは、大したことないから。」と強引に勧められて断りきれなくなり、書類にサインしたとのことでした。また、浄水器については、別の業者が、水道の水質検査に来ました、と言って上がりこんで、「お宅の水は汚れている。浄水器をつけなければ、水質がダメだ。」と言われ、やはり断りきれなくて、書類にサインしたとのことでした。その他、毋は着物の展覧会に来るように勧められていたり、「床下に換気扇をつけなければ床下がかびたり、土台が腐る。」などと言われたりして、いろいろなものを、勧められたりしているようです。
母は、羽毛布団と浄水器代金だけでも、百万円以上の契約をしたことになりますが、年金生活の毋は、これらのクレジット代金を払えるわけがありません。そもそも、必要ないものなので、契約をやめたいのですが、どうしたらよいでしょうか。
一 お母さんは、業者が自宅に訪ねてきた、訪問販売によって契約したのですから、特定商取引法によって、契約書面を受け取ってから八日以内であれば。無条件で契約を解除できます。これをクーリング・オフといいます。クーリング・オフとは、このように一定の期間内であれば、消費者が無条件で業者との間でした契約の申込みの撤回または、解除ができるという権利です。つまり、業者の不適正な勧誘行為により契約の申込みをしたり、契約をしてしまった消費者に、落ち着いて熟慮する期間を与え、頭をクールにさせて、消費者自身が契約の申込みを撤回したり、解除したりできる権利なのです。
二 本問の場合のクーリング・オフができる要件は、①訪問販売であること、②政令指定商品であること(※)、③契約の申込・締結を行ったことです。本問の場合、i業者が自宅に訪ねてきていること、ⅱ羽毛布団や浄水器は政令指定商品であること、ⅲクレジット販売契約書にサインして契約を締結してしまったので、お母さんは無条件・無理由で契約の解除ができます。
三 但し、クーリング・オフには、期間の制限があり、売買契約書などの書面を受領した日から八日以内に、解除の通知を発信しなければなりません。また、クーリング・オフは、書面で行うと定められていますので、後日のトラブルを避けるためにも、配達証明付内容証明郵便という方法で、解除の通知を差し出すのが、確実な証拠になるという意味で最良です。
四 クーリング・オフの書面には、I契約を解除すること、Ⅱ商品は返還するので、引き取りに来て欲しい旨、Ⅲ現金売買で代金を支払ってしまった場合には、返還せよという趣旨を記載します。但し、本問では、クレジット契約による支払いですので、販売業者だけでなく、クレジット会社に対しても、販売業者との契約を解除した旨を通知しておくことと、同時にクレジット代金がお母さんの銀行口座から引落されないよう、口座の引き落し停止の手続きをとっておく必要があります。
五 クーリング・オフの効果は、契約解除の通知を発信したときに、当初に遒って契約はなかったことになります。
六 尚、お母さんの年齢や一人暮らしとのことですので、認知症など、お母さんの判断能力や財産管理能力に問題があるか否かについて、この際かかりつけの医師に診断してもらい、もし仮に判断能力に問題があるのであれば、成年後見制度や、その他の制度を利用して、お母さんの権利を守っていける体制を整えるということが必要になるでしょう。
弁護士 塩味達次郎
※平成20年の特定商取引法改正により指定商品制が廃止され、原則としてすべての商品が同法による規制の対象となりました。