駐車場として貸した土地にプレハブを建てることを許可した場合

一 私は、20年前に甲会社から私所有の宅地100坪を「会社の車の駐車場として貸して欲しい」と頼まれ、青空駐車場ならばと期間も定めず軽い気持ちで貸しました。その為、契約書もつくらず、口約束で毎月末に賃料を私の口座に振り込んでもらうことにしました。

二 貸して1年くらい経って、甲会社は、「会社の車の荷台に、業務用資材を載せたまま駐車しておくので、掘立式でよいから車庫をつくらせて欲しい」と言ってきました。私は掘立式なら良いだろうと口頭で承諾したところ、甲会社は、地面に直接丸太を建て、上方をトタンで蔽った車庫を建築しました。

三 その後更に2年経過したところ、甲会社は、「従業員が早朝や深夜に出発したり、帰社したりするので、プレハブで従業員宿舎を建てさせて欲しい」と言ってきました。
私は、プレハブなので問題はないと思い、口頭で承諾したところ、甲会社は車庫の隣りに、二階建の建物を建て、いつの間にか、一階は甲会社の事務所として使うようになっていました。
私は甲会社に話が違うじゃないのかと抗議したところ、甲会社の社長が「会社も経営が苦しいので、賃料はちゃんと払うから」と泣きついてきたので、私は気の毒に思い、承諾しました。

四 最近、私の息子が結婚することになったので、この土地を返してもらい、息子の家を建てることに決め、甲会社に土地を返してほしいと申し入れたところ、甲会社から「会社には借地権があるから、土地は返せない」と言われてしまいました。
私は、甲会社から土地を元通りにして明渡してもらえるでしょうか。

一 結論から言うと、あなたは、甲会社に対し土地上の建物を収去して、土地を元通りにして明渡せという裁判を起こしても勝訴の可能性は少ないでしょう。

二 何故かというと、あなたが甲会社に従業員宿舎兼事務所の建築を承諾した時点で、甲会社に借地法の借家権が発生していると認定される可能性が高いからです。即ち、当初のあなたと甲会社との駐車場用土地賃貸借契約は、17年前にあなたが従業員宿舎兼事務所の建物の建築を承諾した時点で、建物所有目的の土地賃貸借契約に変更されたと見られるからです。
本件の場合、プレハブといっても、判例がいう、「借地法の適用のある建物とは宅地に定着して建設された永続性を有する建物で、屋蓋、周壁を有し、住居、営業等の用に供されているものであって、独立して登記されるもの」に該ると認定される可能性が高いでしょう。この場合、期間の定めをしておらず、非堅固建物所有目的なので、借地法2条により、期間は30年とされます。従って、賃貸借期間はまだ13年あることになりますので、現時点であなたが土地の明渡を求めて提訴しても勝訴できません。

三 もっとも、借地上に建物といえるものがあっても、建物所有が主目的でない場合には、借地法の適用は受けません。
本件の場合も、屋根付きにせよ掘立式車庫を作っただけなら、当初の駐車場の為の土地賃貸借契約の範疇に入り、未だ建物所有目的の土地賃貸借契約とは言い難いので、掘立式の車庫を建てられた後であっても、プレハブを建てられる前なら、期間の定めがないのですから、民法617条により、あなたはいつでも駐車場用土地賃貸借契約の解除申入れが出来たのです。そして、解約申入後1年後に、契約は終了しますから、その時点で、土地の明渡を求めれば、裁判でも明渡が認められた可能性は高かったと思われます。

四 このように、一度他人に建物を建てる目的で土地を貸したら返してもらうのは難しいということから、土地を貸す人がいなくなってしまったので、平成4年8月1日から新しく借地借家法が施行され、契約更新がない借地権(定期借地権、建物譲渡特約付借地権、事業用借地権)が新設されました。
このうち専ら事業用の建物所有を目的とする契約(居住用部分を認めないもの)なら借地借家法の、期間を10年以上20年以下とする事業用借地権を公正証書により設定契約すると、その期間の満了のときに、土地を明渡してもらえます。この事業用借地権は郊外型の量販店やスーパー、レストランなどの建物を建てるための借地契約に利用できます。

弁護士 塩味滋子