隣家の庭から伸びてきた木の根や枝の剪除や害虫駆除の要求が認められるか

私の家のお隣のお宅は庭木が大好きな方で、広い広い庭を樹木で植え尽して、四季おりおりの樹木の変化を楽しんでいるようです。しかし、庭木に手を加えるのを好まないようで、それぞれの樹木が繁茂し鬱蒼としています。
私の家では樹木は生け垣ぐらいですから、隣家の樹木が緑を与えてくれ、それぞれの木の花の季節には、塀越しに花を楽しませていただいています。しかし、問題もいろいろあります。

一 隣家は自然が一番という考え方で、枝の剪定を全くやりませんので、樹木が伸び放題となり、竹木の根や木の枝が我が家にも伸びてきて困っています。
竹木の根は我が家の庭に芽を出してきたり、他の木の伸びた根が庭をでこぼこにしています。樹木の高枝は張り出して我が家を一部日陰にしています。
私は隣家の枝や根を切ることができるでしょうか。

二 また、隣家では農薬を使って消毒をすることを嫌ってしないため、様々な昆虫が大量発生しています。桜の木は今年見事な花を見せてもらいましたが、これから毛虫(アメリカシロヒトリ)の発生が心配です。毎年初夏になると毛虫が発生し、我が家の方に伸びてきている枝から毛虫が落ちてきて迷惑しています。また真夏には様々な蜂が発生し、乳幼児が居る我が家の周りを飛び交い、不安を感じることもあります。
私は隣家との関係が悪化するのも嫌なので、今日まで我慢してきました。しかし、これから昆虫の発生時期を控えて、隣家に何らかの対応をお願いしたいと思います。どのようなことを要求できるでしょうか。

一 あなたは隣家に、まず①伸びてきている枝の剪定と根が伸びないように処置することを要求できます。次に②昆虫(毛虫、蜂)の発生を防ぐよう適切な処置をなすよう要求できます。
民法233条は、「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。」と定めています。
この規定によると、あなたは庭に伸びてきた木の根は、あなたが勝手に切り取ることができますが、張り出してきた木の枝は、所有者に切り取るよう要求することができるとなっています。
しかし、木の根も一旦切ったからもう絶対に伸びてこないというわけにはいきません。ですから、隣家に確実に木の根があなたの敷地に伸びてこないような対策を採ってもらうことと、木の枝を定期的に剪定して、あなたの敷地に枝がかからないように要求すべきだと思います。

二 昆虫の発生についても、あなたは隣家に、毛虫の発生の事実や蜂の発生の事実を告げ困っていること、害虫の駆除をしてもらいたいことを要求すべきです。
住宅が増加し都市化している地域で、所有者個人の趣味で庭に多くの樹木を繁茂させながら枝の剪定も害虫消毒もしないでいることは、近隣住民に不安と迷惑を与える行為といえます。

三 ところで、Q一、Q二のあなたの要求に相手が応じなかったとき、あなたとしてはどうすべきでしょうか。
Q一のうち根の切り取りについては、自分で切り取っても問題はないでしょう。しかし、樹木の枝については、あくまで隣家の手で切ってもらうことが必要です。そこで隣家にお願いしても隣家が切ってくれないときは、最終的には訴訟を起こして切らせることもできますが、隣家との紛争で初めから訴訟に訴えることは、今後のお付き合いにも悪い影響を与えるでしょうから、あなたは先ず簡易裁判所に民事調停の申立をして、調停手続の中で調停委員を交え、隣家と話し合うことをお勧めいたします。話し合いの中で隣家があなたの要求を納得してくれれば、双方が納得した内容を調停調書にしてもらえます。
話し合いが成立しなければ、裁判を起こすしかありません。隣家で切ってくれないからと、自分で切ってしまうと器物損壊罪となり、刑事処罰の対象になりますから注意が肝要です。

四 Q二については、民法は何ら規定していません。従って、訴訟での解決は困難です。行政に働きかけて地域の安全を確保する責任から、行政の力で消毒を実施させてもらうしか方法がありません。

弁護士 塩味達次郎