長女が勝手に後見人選任の申立をしてきたが、その場合の対処法は?
私は現在八五才ですが、元気で生活しています。
ところで、過日、家庭裁判所から長男のところに照会書がきて、その内容は、私について長女から後見開始審判の申立がされたので、事情を尋ねたいとのことでした。
私は、長男長女が結婚して独立してから、二十年以上東京で夫と二人で暮らしてきました。夫が十年前に亡くなってから二年前までは、夫が遺言で残してくれた家で、夫の遺族年金と私の年金で、一人で暮らしてきました。ところが、三年前に長女一家が「住宅ローンが払えないから」との理由で、私宅に同居するようになりました。当初は、かわいい孫たちと一緒に暮らせるので喜んでいたのですが、長女は、私の実印、印鑑登録カード、預金通帳とATMのカード、家の土地の権利証を取り上げ、自分の貸金庫に入れてしまい、私が返してくれと言っても「お母さんは呆けているから、私が預かっておく」と言って返してくれず、口論となってしまいました。このことを長男に話し、私は現在、長男宅に身を寄せています。
私は、どうしてこんな申立がされたのかを調べたところ、長女が私の通っていた東京のかかりつけの医師に頼んで、私が知能低下をおこしているという診断書を書いてもらい、これを使って申立をしたことが判りました。しかし、長女がこの診断書を書いてもらった時には、私は長男宅に身を寄せていたので。診察は受けておりませんし、老人性痴呆のテストも受けたことはありませんでした。私は、心臓に不整脈がありましたが、炊事。洗濯、掃除、買物など、自分の身のまわりのことは一人でできますし、頭は正常です。後見開始の審判をされないようにするには、どうしたら良いでしょうか。
一 あなたは現在、自分は正常に日常生活を送れるし、何の問題もないので、後見開始なんてとんでもないと考えているようですが、このことを客観的に証明するものはありません。
二 長女は、一応あなたのかかりつけ医の診断書によって、申立をしているのですから、裁判所としては申立を受付け、調査をした上で、結論を出すことになります。
三 後見開始審判の申立がされると、家庭裁判所では、本人が出頭できれば本人を呼び出し、調査宮が面接をして事情を聴きます。次に。医師の診察を受けてもらい、後見が必要かどうかを医師が鑑定し、その結果に基づいて、家事審判官が後見開始の審判か又は申立却下の審判をします。現在、医師の鑑定の場合、長谷川式という簡易な知能評価テストによって、申立をされた方の認知症の有無、程度のテストが行われています。
四 そこで、予め近くの精神・神経科の病院で事情を話し、診察を受けるとともに、この長谷川式のテストを受けてみることをお勧めします。通常三十点満点の内、二十点以下は痴呆、二一点以上は非痴呆とされています。検査の結果、高い得点なら診断書を家庭裁判所に提出し。後見開始の審判が不要なことを上申すればよいでしょう。
五 但し、成年後見制度は、本人の判断能力が不十分な場合に、本人の意思を尊重しながら本人の権利が守られるように、後見人が本人の身上や財産に関する契約等の法律行為を本人に代わって行う制度ですので、もし、あなたの判断能力が正常であれば、後見開始の審判申立に対し、家庭裁判所は却下の審判をするでしょう。その為には、あなたは、家庭裁判所が指定する医師の鑑定を受け、テストで高得点を取り、後見レベルではないとの鑑定をしてもらい、後見開始の審判の申立を却下してもらうようにすべきです。
弁護士 塩味達次郎