遺言書の書き方2

私には、妻と子供四人がおりますが、私亡き後、妻や子供達の間で相続争いが起こってはいけないと思い、「-、不動産の全部を私と同居し跡を取っている長男に与える。二、預貯金等その他の財産全部は、相続人全員で円満に分けなさい。」という遺言書を自筆で作ってみました。
この遺言書があれば私亡き後、相続争いが起こらないと思いますが如何でしょうか。

一 相続が起こったとき、遺言があれば、遺産分割協議より遺言が優先します。従って、将来あなたについて相続が起こったときに、全相続人があなたの遺言の通りで良いと同意し、預貯金等その他の財産全部についても円満な分割協議ができれば相続争いは起こらないでしょう。しかし、あなたの遺言には以下のような問題点がありますから絶対に相続争いが起こらないとは断言できません。

二 先ず、この遺言では妻の居住が確保されないおそれがあります。即ち、「不動産の全部を跡取りの長男に与える」という遺言では、あなたの死後、妻が居住している土地建物を妻が相続できないことになります。これでは、将来妻と長男夫婦の間で万一何らかの紛争が起こったときに、妻の居住する土地建物が妻の所有でないので、妻の居住を確保できないおそれがあるのです。
従って、「〇〇市〇〇町〇丁目〇番地の土地及び同所所在の建物は妻に相続させる」という遺言をしておくべきです。

三 遺言をする意義は、遺産をめぐって相続争いが起こることを防止できることにあります。しかし、あなたの遺言では、不動産以外の預貯金等その他の財産全部については「円満に分けなさい」というだけで「どの預金を誰に相続させる」という遺産分割方法の指定がされていませんので、改めて。全相続人で預貯金等について遺産分割協護が必要となり、協議がまとまらなければ家庭裁判所で調停をやらなければならなくなり、更に、調停で話し合いが成立しなければ審判をしてもらうことになるのです。「円満に分けなさい」というのは、道義的訓戒の意味はあっても。法律上の効力のある遺言とはならないのです。
従って、預貯金等については、例えば、「長女〇〇に、〇〇銀行〇〇支店の定期預金を相続させる」のように、具体的に特定の財産を特定の相続人に相続させるという遺言と同時に、この遺言どおりに執行する遺言執行者を指定しておくべきです。

四 あなたの遺言ですと、長男は不動産全部の他に預貯金を更に取得できることになり、不動産の価額が高い場合には、他の相続人の遺留分を侵害するおそれがあります。相続人が妻と子供四人の場合、法定相続分は妻が二分の一、子は各人が八分の一ずつです。遺留分は法定相続分の二分の一ですから、妻は四分の一。子は各人が一六分のーずつの遺留分があります。従って、遺産総額が六億円で土地が五億円、預貯金等その他の財産がー億円と仮定すると妻は四分の一の一億五干万円の遺留分を、子は一六分の一ずつの三、七五〇万円の遺留分があります。
この場合、預貯金等その他の財産一億円を法定相続分で分けたとしても、妻は二分の一の五千万円しか取得できず、更にあと一億円を遺留分を侵害した長男に請求できることとなります。これを遺留分減殺請求といいます。もし仮に、妻が遺留分減殺請求をした場合、長男が取得した不動産について価額一億円の割合で長男と共有することとなり、本来長男に不動産全都を与えるとした遺言は活かされなくなります。又、子は預貯金を各人が法定相続分八分の一ずつ一、二五〇万円ずつ取得したとしても、長男以外の子は各人が更にあと二、五〇〇万円ずつを。遺留分を侵害した長男に請求できることになります。遺留分は、相続人のために、最低限度遺してあげるべき遺産の割合ですから、遺留分を侵害するような遺言では紛争の種を撒いておくようなものです。即ち、各相続人の遺留分を侵害しないような遺言をするべきです。

五 あなたの遺言は。跡取りの長男や妻の寄与分を明示していません。あなたが「跡取りの長男に不動産全部を与えたい」というのは、恐らく、長男が跡を取ってくれたお陰で遺産の土地を維持又は増加できたのだから、その寄与に報いてあげたいという気持ちからだと思われます。そのような場合に、寄与分という制度があり、相続人の中に遺産の維持増加に寄与した相続人がいる場合、遺産分割の際に、寄与相続人からの主張があれば、遺産から先ず寄与分を控除し、残りの遺産を相続人が法定相続分に応じて相続するというのが原則です。
このように、寄与分は遺産分割の際に、寄与相続人が主張しなければ認められません。そこで、あなたが遺言で法定相続分と違う遺産分割の指定をした理由は、長男の寄与分に応えるため、このような遺産分割の指定をした旨を記しておけば、寄与相続人が他の相続人より余分に遺産を取得する理由が明らかとなり、紛争を予防することが期待できるでしょう。

弁護士 塩昧滋子