遺言書の取り消し方法

一 私は、一昨年妻を病気で亡くしました。私たち夫婦に子はなく、私の親兄弟もいません。ただ、亡妻の連れ子が近くに住んでいて、時々仕事を手伝ってくれています。長年妻と二人で暮らしてきて、一人で暮らしていると毎日寂しいので、できるだけ友人と交流の時間を作ろうと考え、今まであまり出かけなかった老人福祉センターに出かけてみたり、市の広報で知ったカラオケサークルやハイキング会に参加して毎日皆と楽しく過ごすようになりました。

二 私は、そうした活動の中で、あるサークルで知り合った女性Kさんと親しくなりしまた。Kさんは独身で子供が一人いますが、すでに独立していて一人暮らしです。Kさんは性格が陽気で前向きで、サークル活動でも、私は彼女と過ごすのが楽しみになりました。Kさんも私のことを気にしてくれて、だんだん親しくなり、その後二人で日帰り旅行に出かけたり、食事を一緒にとったりするようになりました。

三 私は今のところ健康で毎日の生活に支障はないのですが、病気にでもなったら誰に毎日のお世話を受けなければならないのかと不安を持っていました。いろいろ考えた末に、私はKさんに、私の身の上を話し、一緒に暮らすことはできないかと申し込んだところ、Kさんは「それならあなたの老後の面倒をみるので、遺言を書いてくれ」と言われてしまいました。

四 私は、Kさんと将来は一緒に暮らせて老後の面倒もみてくれるものだと思い、Kさんの言うなりに、公証役場へ連れて行かれ、①私の所有する土地100平方米をKさんに遺贈する②Kさんが選んだ弁護士を遺言執行者に指定する、との公正証書遺言を作らせられてしまいました。その時、遺言公正証書の正本はKさんが受け取り、謄本は私か受け取りました。

五 その後、私は約束どおりKさんが私と一緒に暮らしでくれるのかと期待していたので、入籍もしてくれるかと尋ねてみたところ、Kさんは「亡夫の遺族年金がもらえなくなるから入籍はできない」ときっぱり断ってきました。

六 そこで私は初めで欺されたことに気付きました。私は、以前に作った遺言を取り消したいのですが、どうすれば良いですか。

一 遺言者は生きている間はいつでも一度した遣言を撤回することができます。但し、遺言の撤回の方式は、遺言の方式に従わなければなりません。従って、以前におこなった公正証書遺言を。後に自筆証書遺言で撤回することもできます。

二 しかし、あなたの場合は、でも配偶者も親も兄弟もいないのですから、相続人がいないことになります。相続人がいない場合、遺言がなければ最終的には財産は国庫に帰属してしまいます。

三 ところで、以前にあなたは有効な遺言をなし、遺言執行者にKさんが頼んだ弁護士を指定してしまっているので、撤回の遺言も公正証書でしておくのかよいでしょう。

四 その場合。新たな遺言を作成するだけでなく、あなたの財産を、例えばあなたの亡妻の連れ子など縁のある方に遺贈する旨の遺言を作成し。かつ遺言執行者に弁護士を指定しておくべきです。

五 こうしておかないとあなたがいなくなった後、Kさんははじめの遺言書を使って土地の所有権取得登記をしてしまうかもしれないからです。

六 こうしておけば万一あなたが亡くなった時は、すぐに亡妻の連れ子によって。遺贈による所有権移転登記の遺言執行をしてもらえますので、あなたの財産がKさんに名義変更されることを防げます。

弁護士 塩味達次郎