遺言による受遺者の地位を代襲できるか

ー 私の祖父は80歳になったと言って、遺言を書くと言い出しました。祖父はもともと本好きで何かわからないことがあると関係する本を読んで対応するという生き方をしてきたようで、今回も早速遺言書の作り方に関する本を買い込んで、自分でいろいろな案を考えて作っているようです。

二 祖父は、全文を自分で書いて、作った日と自分の署名を書いて判子を押しておけば別に専門冢に頼まなくても、有効な遺言を作れたと言っています。内容は秘密だと言って私たちの誰にも明かしません。

三 祖父には、長男である父を含め、長女および二男の弟の三人の子がいます。私は、父母との間の一人っ子です。あるとき祖父から相続について、自分の今持っている財産は祖先から受け継いできたのだから、これからもできるだけ長男に相続させようと考えているといわれました。そこで私はきっと長男である父に財産の大部分を相続させる様な遺言が書かれているのではないかと想像しています。

四 ところで、過日父が急に心臓の血管に血栓ができたことが原因して体調を崩し、入院し緊急手術を受け現在療養中となってしまいました。私は父の病名が心配な上に、祖父より父が先になくなってしまうのではないか、父がなくなったとき、遺言で父に殆ど相続させると書いてある遺言の効力はどうなるのかが心配になりました。しかし、いま直接祖父に遺言の内容を尋ねるのもはばかられ、毎日どうしたものかと悩んでいます。

五 父が祖父より先になくなったとき、祖父の遺言書で父に相続財産を殆ど相続させるという遺言の効力はどうなるのでしょうか。

一 お尋ねのケースは、遺言者の祖父が遺言で「長男に全財産を相続させる。」という遺言を書いていて、祖父よりも先に長男が死亡した場合、その後祖父が死亡したとき長男の子は長男の他位を代襲するとして遺言上の地位を承継するのか、という問題です。

二 結論から言うと、このような場合、長男の子は遺言による受遺者の地位を代襲できない、即ち長男の地位(相続分)を代襲するだけであって、全財産を相続できるという地位を承継することはできません。最高裁平成二三年二月二二日判決は、お尋ねの様な場合に、遺言者(祖父)が子である貴方の父親に全財産を相続させるという遺言をしていても仮に子が祖父より先に死亡してしまったときは貴方に相続させるという意思が明確にわかる特段の事情がない限り、長男に相続させるという遺言によって、長男の代襲者(孫)に長男の地位を承継させて全財産を相続させるということはできないとしています。この判決は特段の事情という例外を設けていますが、この例外は殆どあり得ないと思われます。

三 従って、貴方は心配ならば、祖父が元気なうちに良く話し合いを行い、貴方は考えていることを打ち明け、改めて遺言書を見直してもらうべきでしょう。そして必要があれば書き直すとかしておくべきです。将来の紛争を予め予防しておきたいのなら専門家に相談するのも必要かも知れません。

四 なお、どのような遺言があっても祖父の妻と貴方の父の兄弟には相続人として最低限度保証されている相続分の割合として遺留分があります。「全財産を長男(貴方の父)に相続させる」という遺言は将来の紛争を誘発させかねません。祖父の立場から妻や子らが争うことは好ましくはないと考えるのなら、遺留分に配慮した遺言を作ることをお勧めします。

弁護士 塩味達次郎