遺留分放棄の取り消し
一、私は、父親から生前に、「この冢の財産は長男に相続させたいと考えているので、長男のために遺言書を作っておこうと考えている。次男であるお前にはしかるべき財産を贈与するので、事前に遺留分を放棄してくれ。」と言われ、私はやむなくこの申し出を承諾しました。すると、父は、公証役場で、「全財産を兄に遺贈する。」という内容の遺言書を作りました。母には何もあげる内容にはなっていませんでした。
二、次に、父は、私に贈与する内容を「覚書」という文書にして、これに父と私が署名押印をして文書を完成させ、渡してくれました。覚書の内容は、父から私に総額一億円を贈与する。贈与の時期は、覚書作成時から一ヶ月以内に住宅購入資金として金5000万円、翌年から毎年500万円ずつ10年間で分割して支払う、という内容です。
三、私は、覚書の内容に納得したことを告げると、父が家庭裁判所に遺留分放棄の申立手続きをしてくれたので、私は指定日に家庭裁判所に出頭して、遺留分放棄の意思表示をして、放棄の許可を受けました。家庭裁判所では、裁判官から「私が遣留分放棄の意味を正確に理解しているか、放棄をすると相続が開始しても遺留分の請求ができなくなるので、不利益を受けるが、それでも遺留分放棄の意思が真実であるか。」と繰り返し尋ねられましたが、私は「覚書」と書いてあっても贈与契約書があるので、放棄することとし、間違いがないと答えて、手続きは終わり、私は遺留分放棄をしたことになりました。
四、遺留分放棄の手続後、父は、まず約束に従って5000万円を私に贈与してくれましたので私は長年の希望であった住宅を取得しました。
五、その直後、父は急死してしまいました。相続人は母と兄と私です。父が死亡すると、急に兄は態度が大きくなり。母と兄嫁の間も険悪となり、兄は母をかばうこともなかったため、毋はいるところがないと言って、私の家に避難の様な形で移ってきました。それでも、兄は母を迎えに来ないので、母はいまや完全に私の家に同居しています。
六、父の死亡後、兄はさっさと父の全財産を自分名義にしてしまいました。そして、父が私にしていた贈与の約束は、自分には関係ないと言いだし、一切の金銭の支払いをしようとはしません。そして、母親のいない実冢で兄嫁と子供で何の問題もなかったかのように暮らしています。私と母は、兄のこのやり方に到底納得ができません。私は遺留分の放棄を撤回できるでしょうか。
毋には遺留分請求権があると思いますが、手続きはどのようにしたらよいでしょうか。
一、父親が、これが一番いい案だとおもっても、ご本人がいなくなると、事態ががらっと変わって、関係する家族が大変な事になる典型だと思われます。しかし、事態を冷静に見つめ、しっかりと対応策を取ることが、今後の生活をしていく上で重要です。
二、まず貴方の場合についてお答えします。遺留分放棄の手続を取ってしまっていますので、これを撤回することはできるかです。遺留分放棄の許可審判をした後に前提となった客観的事情が変わってしまい審判を維持しておくことが不適当となったときには事情の変更を理由として家庭裁判所が取消の審判をすることができます。しかし、本件の場合、特に前提事実が変わったとは認められにくいでしょう。但し、貴方は、父親との贈与契約に基づき、父親の財産の包括遺贈を受けた兄に対し、贈与契約の履行を求めることができます。兄は、自分は贈与契約の当事者でないのだから関係がないと言っているようですが、父の遺産の包括遺贈を受けていますからプラス財産だけでなく債務も継承していることになります。貴方は兄に対し,父親から貴方にしていた贈与の約束を履行請求する権利があります。兄が貴方の要求に応じなければ、訴訟をおこしても履行を要求するしかありません。
三、母上の場合についてお答えします。母上は遺留分を放棄していないので、兄に遺留分を請求すればよいと思います。配偶者である母上の遺留分は法定相続分二分の一の二分の一ですので全遺産の四分の一です。これも兄が要求に応じなければ、まず、母上から遺留分減殺請求の意思表示した配達証明付内容証明郵便を送付しておく必要があります。この権利は父上の死亡後一年以内に行使しないと時効にかかってしまうからです。次ぎに話し合いで遺留分に相当する額の遺産を要求することになります。話し合いがまとまらないときには家庭裁判所に遺留分減殺請求の調停申立をすることもできますし、地方裁判所に直接訴訟を起こすこともできます。貴方と母上の今後の生活を守るためにも、しっかりとした対策をとっておくべきです。
弁護士 塩味達次郎