遺産分割と生命保険金
私の夫は、都内で会社の経営をしておりましたが、昨年亡くなりました。相続人は、亡夫と先妻との間の長男甲と、後妻の私との間の長女乙と私の三人です。
夫は生前、「会社や仕事に関する土地建物は、長男甲にやる。それ以外のものはお前にやる。」と言っていましたが、遺言書は作っていませんでした。
甲は、もう成人して夫の会社を継いで事業を立派にやっています。しかし、亡夫と私との間の長女乙はまだ未成年であり、これから何年も養育費等がかかります。
生前、夫は五千万円の生命保険をかけていて、保険金受取人として、私と長男甲を指定しているから、自分に万が一のことがあっても大丈夫だと言っていました。私は甲に「夫の生命保険金を分けてくれ。」と言ったところ、甲は、「遺産分割協議が済んでから、生命保険金は分けるので、それまで待ってくれ。」と言って、保険会社から相続人代表の甲の口座に生命保険金五千万円が振り込まれているのに払ってくれません。
このような場合、遺産分割協議が済まないと生命保険金は甲から払ってもらえないのでしょうか。
一 生命保険金が遺産となるのか否かは、生命保険契約の内容により結論が異なります。
二 ご質問のケースでは、保険金は、既に相続人代表の甲の銀行口座に振り込まれているとのことですので、この生命保険契約は、あなたのご主人が保険契約者兼被保険者として、ご主人が死亡したときに保険金受取人として、あなたと長男甲を指定している場合と考えられます。この場合、他人の為の保険契約となり、生命保険金は遺産になりませんから、その保険金受取人(あなたと長男甲)が、自らの固有の権利として生命保険金を取得します。従って、この生命保険金について、甲の言う遺産分割は必要ありません。
三 ところで、生命保険金五千万円は既に相続人代表甲の口座に振り込まれているのに、甲が渡してくれないとのことですから、あなたは甲に生命保険金の請求及び受領を委託したと見られます。しかしあなたは、生命保険契約の内容、特に保険金は受取人にどの割合で指定されているのかをご存じないようですので、甲に対して、これらのことを明らかにしてほしいと要求すればよいでしょう。
具体的には、生命保険金受領のために作成し保険会社に提出した文書の写しを要求すれば、例えば、五千万円の保険金の内、二分の一を配偶者のあなたにとの指定がなされているのであれば、あなたの保険金請求権はご主人の死亡により現実化し、あなたの固有の権利となるので、あなたは甲に保険金二五〇〇万円を支払ってくれと請求できます。
前述のとおり、この場合の保険金は遺産ではないので、遺産分割協議は必要ありません。
四 尚、ご主人がご自身を被保険者として契約していた生命保険契約で、保険金受取人を契約者であるご主人と指定していた場合で、満期後にご主人が死亡すれば満期保険金請求権は、被相続人(ご主人)の固有財産となり遺産分割の対象となります。
弁護士 塩味達次郎