遺産分割と国際結婚

一 私は離婚歴のある健康な独身男性です。私の父は五年前に亡くなり、この度母もなくなりました。私は長男で父母と一緒に暮らしてきましたので、いずれも最後までお世話をし、面倒を看て参りました。兄弟としては、弟一人と妹一人がいます。
父の相続の時には、私が父をしっかり介護して見送ったということで、母が半分を相続し、私が残りの財産の大部分を相続することについても、兄弟は法定の相続分に満たない相続分だけで了解してくれました。
そこで、今回も父の時と同様に当然了解してくれるであろうと考えていたので、話し合いを持ちかけたところ、初めは了解してくれるような雰囲気だったのですが、あることがきっかけで話がこじれてしまいました。

二 というのは、私は一年前に妻と離婚していたので、再婚するという話が出た途端に、兄弟が急に法定の均分相続を主張し始めたことです。私には既に子供も二人おり、いずれも結婚して分かれて暮らしています。

三 私は妻と離婚後、毎日の生活に何となく寂しさを感じておりましたので、インターネットでいろいろな情報を見ていると、日本男性と結婚して日本で暮らしたいと考えている外国人の女性がいることが判りました。
私はこういう女性と結婚したいと考えるようになり、仲介業者に依頼して何人もの女性の写真や家族状況を知り、そして結婚したいと思った女性を仲介してもらいました。その後、相手の国に渡航して女性の親や兄弟にも会い、会食をして厳粛な中にも楽しい時間を過ごし、結婚を取り決めて帰国したのです。
相手の女性は、既に一度結婚して子供も一人いますが、離婚時には子供は夫に引き取られ、育てられているそうです。日本語は殆どできません。年齢は私より一五歳も若いのですが、真面目そうな人なので、私としては是非結婚したいと考えています。

四 こうした状況を兄弟に話したところ強く反対され、どうしても結婚をするのなら、母の相続について、法定の均等相続を主張するというのです。子供達も結婚に大反対です。
私としては、どうしても私の結婚をそんなに妨害するのかと不満です。私はどうしたら良いのでしょうか。

一 まず貴方のご兄弟の気持ちは、貴方が相続する実家の財産が、再婚によって将来貴方が先に亡くなると、外国人の妻に移ってしまうのではないかとの懸念から出ているのではないかと考えられます。

二 あなたが毎日の生活に寂しさを感じているのであれば、再婚を考えるのも、もっともなことです。そもそも結婚は、貴方ご自身の判断のみによって決められるべき事柄ですから、ご兄弟や子供さん達といえども、口出しができないのは当然のことです。
しかし結婚後の円満な交流、即ち、おつきあいを考えるとき、ご兄弟や子供さん達の了解を得ておくことも、一応考えてみるべきだと思います。

三 またご兄弟は貴方の家の財産を貴方が相続して、子供に譲っていくと考えたときには、相続の話し合いはあまり問題なく進みそうだったとのことでしたが、貴方が再婚するという話を聞くに及んで異議を述べ始めたというのですから、貴方が相続する財産の行方について、大変気にしていることは明らかです。

四 現在の私達の社会においては、日本人と外国人との結婚は徐々に増加しつつあり、誰もがこれを特別なことと感ぜず、一般的なことと考えるようになってきております。その点では貴方の結婚について何の問題もありません。ただ、気になる点を上げれば、日本語もできない外国人女性が、貴方のことをよく知りもしないで貴方との結婚に踏み切り、日本に来て生活を共にするという点です。
率直にいって貴方との結婚は、やはり日本での生活をしたいという考えと同時に、貴方の財産をアテにしているのではないか、究極的には貴方が亡くなった場合には、妻として財産を相続した上、処分するのではないかと兄弟や子供さん達に疑われやすいのは、やむを得ないといえます。

五 そこで、貴方としては先ず遺産分割の話し合いを進めて、分割を終えるべきです。これが兄弟間だけではまとまらないときは、家庭裁判所に遺産分割調停を申立て、調停を成立させるか、調停も成立しないときには、審判によって分割を決定してもらわなければなりません。

六 その後に、貴方がことを急がず相手の女性と交際を重ねて、相互に訪問しながら、ご兄弟や子供さん達にも相手の人柄をよく知ってもらい、貴方も相手の女性をよくわかるようになってから、改めて結婚するかどうかを考えてみるというのがよいのではないかと思います。
再婚といっても、やはり人生の重大な事です。再婚して再び離婚することになってしまっては、更に不幸なこととなります。慎重にことを進められるようにお勧めします。

弁護士 塩味達次郎