遺産の増加に寄与した相続人や、生前贈与を受けた相続人がいる場合

私の父は、10億円の遺産を残して最近亡くなりました。私は学校を出てから跡取りとして両親と同居し、父の事業を無償に近い状態で手伝い、父の晩年には病気がちであった父の代わりに事業を経営して来ました。私としては、父の遺産の内の一割は、私が無償に近い状態で父の事業に従事した結果増えたと思っています。母は既に亡くなったので、父の相続人は私と姉A・弟B・妹C・弟Dの五人です。しかし、弟Dは法定相続分五分の一を主張して譲らず、遺産分割の協議がまとまりません。
弟Dは、数年前に父から一億円の資金を贈与してもらい商売を始めましたが、うまく行かず倒産させてしまい、父は生前、弟Dのことを「遺産を分ける必要はない」と言っておりました。

①このような弟Dにも法定相続分として、全財産の五分の一の遺産を分けてあげなければなりませんか。

②遺産分割の協議がまとまらない場合、どうしたら良いですか。

③私が無償に近い状態で父の事業に従事した結果、遺産が一億円増えたことを認めてもらうにはどうしたら良いですか。

④父が弟Dに贈与した一億円は、その分を弟Dの相続分から差し引くことはできますか。

⑤私の③の主張が認められた場合、相続人各人の具体的相続分はいくらになりますか。

一 ①について

あなたが無償に近い状態で父の事業に従事した結果、遺産の内の一割が増加したということが証明できれば、あなたは父親の遺産について寄与分を主張できます。
このように、寄与分というのは、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした相続人に、法定相続分以上の遺産を取得させ、相続人間の実質的公平を図るものです。
また、父親が生前弟Dのことを「遺産を分ける必要はない」と言っていた理由が、生計の資本として相続分を前渡しした生前贈与だからというのであれば、その生前贈与された一億円も計算上遺産の中に持ち戻すことになります。
即ち、相続人各人の具体的相続分を計算するには、相続開始時における相続財産の価額一〇億円に弟Dへの生前贈与額一億円を加えた十一億円からあなたの寄与分一億円を控除した一〇億円をみなし相続財産として下記の計算式で算出します
この結果、各人の法定相続分は、五分の一ずつの二億円となりますが、弟Dは一億円を既に贈与されていますから、弟Dの具体的相続分は法定相続分二億円から生前贈与分の一億円を控除した一億円となります。
従って、弟Dに法定相続分五分の一の二億円を分けてあげる必要はありません。

二 ②について

遺産分割の協議がまとまらない場合は、あなたは他の共同相続人全員を相手方として家庭裁判所に遺産分割の調停の申立をすることができます。もし仮に、遺産分割の調停で話がまとまらず、調停不成立に終わった場合は、審判手続に移行します。

三 ③について

寄与分についても、全相続人であなたの寄与分を定める協議ができるのが理想ですが、協議がまとまらない場合は、②の遺産分割の調停の申立と同時か、または遺産分割調停事件(調停不成立のときは遺産分割審判事件)が家庭裁判所に係属中に、その家庭裁判所に寄与分を定める調停申立(または審判の申立)をすれば、遺産分割事件と併合され、一つの手続の中で寄与分についても調停または審判の対象とされます。

四 ④について

一①に前述したとおり、弟Dは一億円を既に生前贈与されていますから、弟Dの具体的相続分二億円から生前贈与分の一億円を差し引いた一億円となります。

五 ⑤について

相続開始時における相続財産の価額一〇億円の内、あなたの寄与分が一億円と認められた場合、各人の具体的相続分は左記の計算式のとおりとなります。

弁護士 塩味滋子