農地の売買と所有権移転許可申請協力請求権の消滅時効
一 私の父は、サラリーマンだった昭和四十一年十二月十五日に、甲さんから、農地法五条の許可を条件としで農地を買い取り、代金全額を支払いました。その際、農地法五条の許可を停止条件とする所得権移転請求権仮登記もしました。父は将来その土地に店舗を建ててコンビニを営業する予定だったのです。
二 しかし、その土地は、その後、土地改良事業の対象地となったり、更に、その後大規模な区画整理事業の対象となり、この間、地目は農地のままであったため父は店舗を建てることもできず当然コンビニを開業することもできず、平成十五年に亡くなりました。その後、買主の地位を私が相続しました。
三 最近になり、区画整理事業が完了し、登記簿上の地目は宅地となりました。私は甲さんに、「仮登記を本登記にして下さい」と要求したところ、甲さんは、「農地法五条の県知事に対する農地転用許可の申請協力請求権は、売買契約時から十年たった時に時効で消滅しているから、登記には応じられない」と拒否してきました。私はどうしたら良いでしょうか。
一 甲さんの「売買の時から十年たったときに、県知事に対する所有権移転許可申請協力請求権の消滅時効期間が経過したから本登記には応じられない」という主張は認められません。なぜなら、農地の買主が売主に対して有する県知事に対する許可申請協力請求権の時効による消滅の効果は、十年の時効期間経過とともに確定的に生ずるものではなく、売主が右請求権についての時効を裁判上援用した時にはじめて効果が確定的に生ずるからです。
二 従って、おたずねのケースでは甲さんが「時効で消滅している」と言っても、裁判上で主張(時効の援用)したわけではありませんし、裁判上主張するまでに、既に本件土地は宅地となってしまったのですから、宅地となった時点で本件の売買契約は当然に効力を生じてしまうことになります。
従って、買主たる地位を承継したあなたに所有権が移転していることになるので、その後に甲さんが県知事に対する許可申請協力請求権の消滅時効を援用してもその効力は生じません。すなわち区画整理事業が完了して、本件土地が農地から宅地になった時に、農地転用についての知事の許可は不要となったのですから、農転の許可申請の協力をあおぐ必要はなくなったと言えます。
三 あなたは、亡父の買主たる地位を承継しているのですから、甲さんがあなたの言い分を聞かないようなら、買主の権利として、本件土地についての仮登配に基づく本登記手続請求訴訟を裁判所に提起し、勝利判決に基づいて、所有権移転登紀をすることができます。
四 なお、あなたの父親やあなたが土地に対する税金をどのようにしたかが問題となります。農地の場合。租税は比較的低いと推定されますが、父上が買受時から、あなたが相統してからはあなたが、甲さんに税金を支払うと申出て、現実に税金分を提供し。拒否されたため供託をしていたのであれば問題はありません。そうしてないときはあなたは甲さんに。父上が買った時から所有権移転登記を取得することとなる時までの税金をまとめて支払うこととなります。
話し合いで解決するとしても裁判上の解決を計るとしても、税金分の清算は必要となるでしょう。
弁護士 塩味達次郎