車を盗まれて事故を起こされた場合の車両所有者の責任

私は、自宅前の路上で自家用車を盗まれ、事故を起こされてしまいました。
その日私は、夜9時ころ用事があって自宅から車で出かけようとして、自宅敷地から道路に乗り出して直ぐに忘れ物に気付き、家の前の道路上にエンジンキーをつけたまま、半ドア状態で車にブレーキをかけて忘れ物を取りに行きました。その少しの間に、何者かに車を盗まれ走り去られてしまったのです。
車を盗んだ犯人は、走り出して約1キロメートルのところで歩行者をはねて大怪我をさせる事故を起こし、その直後に逃げてしまいましたが、2日後に捕まりました。
私は、車を盗まれてしまったときには、急用があったので、直ぐに盗難車を探すとか警察に届け出るとかしませんでした。そして、そのうちに犯人が車を乗り捨てるだろうから、そのときに警察から連絡があって返してもらえるだろうと安易に考えていたので、警察から連絡があるまで放っておきました。
犯人は25歳のフリーターで、定職には就いていないため資産もなく、事故によって生じた損害の賠償能力はありません。被害者は、事故後1ヶ月間病院に入院し治療を受け、退院後は2ヶ月半通院して治療を受けましたが、完全には治らないとのことで、マッサージに通っていました。
事故後4ヶ月経過したところで、被害者から思わぬ話を告げられました。というのは、被害者が症状も安定してきたので、私が加入している自動車保険の任意保険会社に治療費の精算、逸失利益、慰謝料の算定を求めたところ、保険会社から「この事故は、車の所有者にも保管責任の過失がある。治療費については仮払いとして今日まで全額支払ってきたが、既に支払い済みの治療費も含め、逸失利益、慰謝料、後遺障害の全てを算定した上で、車の所有者と損害の分担割合を取り決め、その上で支払う。」と告げられたそうです。
驚いた私は、早速保険会社に連絡をいれたところ、同じ回答を受けました。私は損害の分担に応じなければならないでしょうか。

一 結論から言えば、あなたは自動車の保管についての過失の程度に応じて、損害の分担をしなければならないでしょう。

二 事故を起こした車の所有者であるあなたには、まず車の運行供用者として責任があるかどうかが問題となります。あなたが自分の車をしっかりと管理していたにも拘わらず、盗まれて事故を起こされたときには、責任がないのは言うまでもありません。しかし、本件の場合、あなたは家の前の路上で半ドアでキーを付けたまま車から離れていた間に車を盗まれたというのですから、十分な保管をしていなかったことは明らかです。また、盗難にあった後、直ぐに車を取り戻す努力をしていなかったことも、あなたの責任を加重することになります。

三 他方、車が盗まれた場所から1キロメートルも離れた場所で事故が起こったという事実から、そこまで保有者の責任を問うべきかということも考えるべきことです。
過去の裁判例では、車の窃盗場所からわずか150メートル離れたところで起きた事故について、保有者の責任を認めた例があります。そこで1キロメートルも離れた場合まで、責任を認めるのはどうかという疑問も出てきます。しかし、被害者の救済を重んずる法解釈の流れから見て、管理責任を問われることになるのではないかと思います。
結局、あなたには運行供用者責任を免れることは難しいでしょう。

四 もちろん事故が生じたとき、まず第一に事故を起こした運転者即ち窃盗犯人に損害賠償責任があることは当然です。しかし、責任があっても賠償能力がなければ、第二に車の保有者即ち所有者であるあなたに責任が及びます。自動車保険に入っていれば、この責任を保険でまかなうことになります。しかし、保険会社が常に全額の損害の賠償に応ずるわけではありません。車の保有者たるあなたにも車の保管に過失があれば、損害の分担として応分の負担をしなければならなくなります。

五 あなたは前述の通り、車から離れるとき、半ドアでかつキーを付けたままであったこと、車が盗まれた直後に積極的に探さなかったことは、あなたの過失を裏付けることとなります。

六 結局、この事故の場合、被害者は無過失ですから、事故の加害車(窃盗犯人と車の保有者)が被害者の損害を全額賠償することとなります。支払い能力のある保険会社とあなたが話し合いの上で決まった額を支払うこととなるでしょう。話し合いがつかなければ、裁判で解決するしかありません。それにしても車の保管には、十分注意することが肝要です。

弁護士 塩味 達次郎