認知症の父についての保佐開始審判申し立て

私の父は一人暮しですが、資産として多数の土地や賃貸マンション、預金を持っており、その収入で家政婦派遣会社から家政婦を派遣してもらい、食事・洗濯・掃除など身の回りの面倒を見てもらっていました。ところが家政婦のAさんは、父を騙し「私はここをクビになったら収入が無くなるので、保証金を出してくれ。」と言って、父と一緒に銀行に行き、父名義の一千万円の定期預金を下ろさせ、騙し取ったことがわかりました。最近の父の主治医の診断では、父はアルツハイマー型認知症ということです。Aさんは、父をマインドコントロールして、父の権利証や実印、銀行の預金通帳などを勝手に管理しているようですので、このままでは、父の財産は、Aさんに滅茶苦茶にされそうで心配です。どうしたらそのようなことにならないようにできるでしょうか。

一 主治医の診断によると、お父さんは、アルツハイマー型認知症ということですが、医学的にはアルツハイマー型認知症になると症状の進行が早く、性格が崩壊してくるため、早期に援助が必要になってきます。しかし、性格が変わると周囲の援助を拒否したり、人間関係が損なわれるため一般社会の援助では限界があり。法的な確かな援助が必要となります。

二 右のような援助の方法として、法定後見制度の中の成年後見制度があります。法定後見制度には、①従来の「禁治産宣告」に相当する制度として「後見」、②従来の「準禁治産宣告」に相当する制度として「保佐」、③今回新設された新しい制度の「補助」の三類型があります。右のうち、「後見」と「保佐」の対象者の判断能力はどの程度かですが、①「後見」の対象者は、「自己の財産を管理・処分できない程度に判断能力が欠けている者、即ち、日常的に必要な買い物も自分ではできず、誰かに代わってやってもらう必要がある程度の者」とされます。また「保佐」の対象者は、「自己の財産を管理・処分するには、常に援助が必要な程度の者、即ち。日常的に必要な買い物程度は単独でできますが、不動産・自動車の売買や自宅の増改築・金銭の貸し借り等、重要な財産行為は、自分ではできないという程度の判断能力の者」とされています。

三 お父さんの場合、認知症も進行中であり、人格的変化も現れ「保佐」相当だと思われます。できるだけ早く家庭裁判所に対し「保佐開始の審判」の申立をするべきです。

四 保佐開始の審判がなされると、お父さんが不動産の譲渡など一定の重要な行為をするには、保佐人の同意が必要となりますが、この他に、保佐開始の審判申立と同時に、以下のような特定の法律行為について、保佐人に代理権を付与するように裁判所に求めることができます。これを代理権付与の申立と言います。

①金融機関との全ての取引
②賃貸マンション・アパートの賃貸借契約の締結・変更・解除
③家賃地代等の定期的な収入の受領及び支払
④登記済権利証・実印・銀行印・印鑑登録カードの保管及び事務処理に必要な範囲内の使用
⑤Aさんを派遣した家政婦派遣会社との家事援助者等の派遣契約の解除及び他の家事援助者との派遣契約の締結・変更・費用の支払い
⑥Aさんに対する不法行為に基づく損害賠償請求並びにこれに関する訴訟行為

五 また保佐人には、公正な第三者に財産管理を委ねるため。弁護士を選任してもらうと良いでしょう。

六 「保佐」の審判がなされ、「保佐」が開始してその旨の届出が銀行になされると、お父さんは保佐人の同意がないと預金を下ろすことができなくなります。また、銀行への届出がなされていなかったため、お父さんが保佐人の同意なくして預金を下ろすことができたような場合でも、保佐人はその行為を取り消すことができます。また審判で前項の②③④⑤⑥等の行為について代理権付与の決定が出た場合、保佐人がそれらの行為を代理することができます。

七 尚、本件のように、お父さんが預金を失ってしまったような場合や「保佐開始の審判の申立」をしてから、審判が下るまでの間にも、Aさんに勝手な財産処分をされそうな恐れのある時には、保佐開始の審判の申立と同時に「審判前の保全処分」の申立をして、お父さんの財産管理人の選任を申立てることができますので、弁護士に相談してみてください。

弁護士 塩味滋子