自宅のブロック塀が倒壊したことによる責任
一 去る3月11日の東日本大震災により、私の家と隣家の境界線沿いに建っていた私宅敷地内のブロック塀が倒れ、隣家の建物を壊してしまいました。このブロック塀は平成元年に築造したものです。幸い隣家には震災時に誰も人がいなかったので、けが人は出ずほっとしています。
二 私は、地震がブロック塀倒壊の原因ですから天災だと思っています。ですから今回の様な大地震の場合にも、私は隣家の建物を修理しなければならないのか疑問に感じています。
三 私はこの壊れたブロック塀をよく見たところ、どうも手抜き工事も関係しているのではないかと疑っています。ブロック塀が壊れた原因が手抜き工事にあったとした場合、工事業者に責任を追及出来るでしょうか。
一 貴方の敷地内のブロック塀は土地の工作物にあたりますので、土地の工作物の占有者および所有者の責任の有無が問題となります。民法は、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者および所有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う(民法七一六条)としています。
二 「工作物の設置又は保存に瑕疵がある」とは、工作物が通常考えられている強度が無く、予想可能な地震の震度でも倒壊してしまうような場合をさします。ですから予測不可能な大地震の場合には工作物の占有者又所有者といえども、不可抗力に基づくものとして他人に与えた損害の賠償責任を免れたことが考えられます。
三 そこで、どの程度の震度の場合に、工作物の占有者・所有者が責任を免れるかが問題となります。判例では、地震の規模とブロック塀の建てられている地盤、地質の状況、工作物の構造、施行方法、管理状況等を総合勘定し、当該地域において過去に発生した地震の最大級のものに耐えられるか否かを基準として、予想可能な震度の地震に耐えうる安全性を有していたのであれば損害賠償責任はないとしています。
昭和53年に発生した宮城沖地震に関する判決例では、震度5に耐えうるかどうかを基準として責任の有無を判断しています。これは一つの判断基準であって、今後もこの判断基準が維持されるとは考えられません。今後同様の事案に於いて判決例が積み重ねられていくものと思います。
四 お尋ねの場合、3月11日の地震が、貴方の居住する地域での過去最大級の地震の震度を超えた地震であれば責任を免れることが考えられます。しかし、そのような場合でなければ、貴方は倒壊したブロック塀によって壊した隣家の建物を補修する責任があります。
五 次ぎに。貴方は、ブロック塀にそもそも工事の瑕疵があり(手抜き工事)、これが原因の一つとなっていた上に地震にあって倒壊しだのではないかと疑っておられます。ところで、ブロック塀の施行方法および工事方法については、昭和46年以降に築造されたものは建築基準法施工令六二条の八に基礎や鉄筋の使用などの基準が定められていますので、今回倒壊したブロック塀がこの基準に合致しているかどうか調査してみることをお勧めします。
その結果、仮に基準に合致していなければ、隣人に対する賠償を果たした後、貴方は工事業者にその損害の賠償を請求することができます。
弁護士 塩味達次郎