縁組前の養子の子が、養親の甥にあたる場合の代襲相続権

一 私は現在35歳で独心身です私の伯父(私の父「甲」の兄)「乙」はかなりの資産家ですが子どもがいなかったため、私は15年前に乙夫妻と養子縁組をして養子となりました。

二 私は勤務先の都合もあり、養子縁組後も乙夫妻と同居することもなく、離れて別に暮らしていました。養母が5年前に亡くなり、養父乙は一人で生活していましたが、体が不自由となったため、近所に住んでいる私の両親が面倒をみていました。

三 乙は自分のもとに寄りつかず何の力にもなれない私より、私の両親のほうがよほど頼りになると言いだし、4年前に私の父親と養子縁組をしてしまいました。

四 3年前に、私の父甲が事故のためなくなりました。最近養父乙も病気により死亡しました。父の相続問題は解決していますが、伯父(私の養父乙)の相続の問題が起こっています。私には兄と弟がいます。養父は遺言はしていませんでした。この場合、相続人は誰で相続分はどうなりますか?

一 養父の相続人は、養子である貴方と生きていたとしたらやはり養子となっていた貴方の父甲さんですが、甲さんは既に死亡しているということです。

二 民法は、「被相続人の子は、相続人となる」(民法887条1項)と定め、「被相続人の子が相続の開始以前に死亡したとき、~その子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない」(同条2項)と定め、代襲相続を認めています。なお、「養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる」(同法727条)としています。

三 まず伯父(貴方にとっては伯父であり、かつ養父)の相続人となるのは誰かが問題となります。
この場合は伯父乙と父甲との養子縁組前の養子の子(貴方の兄と弟)に代襲相続権があるかという問題です。仮に甲と乙が全く他人どうしであったとしたら、養子縁組前の養子の子は民法727条によれば養親と親族関係を生じていないことになります。しかし、養父乙と養子甲は実の兄弟であり貴方の父親から見れば貴方の兄と弟は、貴方の父親から見れば貴方と同じ子です。しかし、乙さんから見ると弟でもある貴方の父親との養子縁組を通じて兄と弟は卑属になるわけで、前記887条2項の被相続人の直系卑属とは言えないのではないかということが問題となります。

四 これらのことから、貴方の兄と弟は被相続人乙さんの代襲相続人となるかどうかが問題となるのです。養子縁組前の養子の子は養親から見て直系の孫ではありません。この見地からあくまで代襲相続権を認めない考え方もあり得るのです。お尋ねの場合には養親乙と養子甲の子(兄と弟)が養子甲を通じて直系卑属となりますが、もし仮に養親と養子とが全くの他人だった場合やあるいは養子の連れ子に代襲相続権を認めることが妥当でしようか。その場合は代襲相続権は認められないと考えられます。

五 お尋ねの場合についても、かつては代襲相続権を否定した裁判例も存在します。現在では、養親と養子の間に兄弟姉妹のような親族関係がある場合に縁組前の養子の子に、養親の相続にあたり代襲相続権を認める方向にあると言えます。但し最高裁の裁判例は未だありません。高裁段階の裁判例では、大阪高裁平成元年8月10日の判決があります。この判決では、民法887条2項ただし書について「被相続人の直系卑属でない者を代襲相続人から排除した理由は、血統継続の思想を尊重するとともに、親族共同体的な観点から相続人の範囲を親族内の者に限定することが相当であると考えられたことをあげ、縁組み前の養子の子に代襲相続権を認めています。

六 結局、貴方の兄弟等には、代襲相続権があることになります。貴方にも当然代襲相続権があることになります。貴方は、まず養子としての相続権二分の一と父親を代襲相続した二分の一の三分の一即ち六分の一を合わせた六分の四つまり三分の二を、他の兄弟は二分の一の三分の一即ち六分の一づつを相続することになります。

弁護士 塩味達次郎