突然のリストラに対する対処法

私の娘は、広告業界に就職したいと考え、大学在学中からアルバイト先としてある広告会社に行き、その勤務ぶりが認められて、卒業後はその会社に就職しました。
そして、勤務をはじめて今年で5年となり、仕事にもなれ毎日生き生きと勤めに出かけていました。勤務部署の仕事内容は、広告対象者の市場調査です。
ところで、娘は10日ほど前に上司から呼ばれて、突然、「昨年のリーマンショック以降、今まで仕事を出してくれた多くの顧客会社の売り上げが減少したため、顧客からの当社に対する広告費が大幅に減少した。このままでは同社もやっていけないので、某会社に吸収合併してもらうことになった。ついては君が勤務している部署は、合併後はいらなくなるといわれている。そこで、合併前に全員辞めてもらうことになった。また他の部署も削減を申し渡されている。君には申し訳ないが、当社を合併前の来月末で辞めてもらいたい。既定の退職金は勿論出す。考えて置いてくれ。」と言われたそうです。
そして、昨日再び、上司に呼ばれ、退職を承諾するよう求められました。娘は、その時深く考えることもなく、上司が用意した退職届に署名してしまったそうです。しかし、後で改めて考え直してみると、この会社を退職した後、次の就職先が見つかるだろうかとか、見つかったとしても今までの経験が活かせない別の職種しかないだろうとか、給与は大幅にダウンすることを我慢するしかないだろうとか、いろいろ考えてしまい、娘はやっぱり会社を辞めたくないし、できれば合併後の会社に勤めたいと考えているようです。
私に何かと力になってくれと言ってきました。どうしたらよいでしょうか。

一 ご質問の趣旨として、まず解雇無効を主張し、引き続き同じ会社に勤務をしたい、或いは合併後の会社に勤務したい、という場合をお答えします。
娘さんが、上司の要求に屈して退職届を出してしまったことは、形式としては、正式に娘さんの了承があったことになり、今更これを撤回するということは難しいでしょう。
しかし、よく考えてみれば、上司が部下を呼び、いきなり退職届を持ち出して、署名捺印を求めることは、解雇される人に不意打ちを与えるような行為であって、慎重熟慮の時間を与えないと言う点で問題です。しかし、このまま時間が経過すれば既成事実として重みを持ってきますので、娘さんは先ず直ちに、会社に対し、退職届を撤回する旨の意思表示をすべきです。これは、後で受け取った受け取らないと言う論争を避ける意味で、配達証明付内容証明郵便で行うべきです。

二 次に、娘さんは解雇が無効である旨の法律上の手続きを進めなければなりません。早期の決着を求めるのなら地方裁判所に労働審判の申立てをすべきです。
審判手続きでは、裁判官1名と使用者側・労働者側の代表者各1名の3名が労働審判委員会として、労働者と会社の言い分をよく聞いて、審判手続きを進めてくれます。但し、審判期日は全部で3回しか開かれませんので、この短い期間内に解雇無効の立証をしなければなりません。審判期日には双方の言い分と裏付けをもとに、客観的な立場で判断をして、解決案の提示をしてくれます。娘さんの解雇無効の立証が功を奏すれば、会社側の主張が抑えられて、会社に引き続いて勤務することができるようになるかもしれません。
しかし、会社の主張が認められて、娘さんの解雇は会社にとってやむを得ないことであるという判断になるかもしれません。その場合には、労働審判委員会は、会社に対し、労働者である娘さんに十分な補償措置を講ずるよう勧告してくれる場合もあります。
しかし、会社側が解雇は有効であるとして補償することに応じないこともあります。万一、解雇有効として、申立却下の審判が出た場合は、娘さんは2週間以内に異議の申立をして、正式裁判の手続きをとることができます。この場合、労働審判は無効となり、裁判所によって、会社が娘さんに対してなした解雇が無効か有効かが審理されます。

三 本件では、会社が本当に経営状態が悪化していて、合併しなければ存続が難しいのか、合併した場合娘さんが勤務している部署は必要なくなるのかなど、事実関係がはっきりしていない段階で軽々に結論を出すことはお勧めできません。取るべき手続きを取らずに、後になって悔やんでも仕方がありません。納得のいくまで手続きを取ることをお勧めいたします。

弁護士 塩味 達次郎