相続放棄の申述期間を経過してしまった場合
一 私は、平成二十二年六月一日東京都内の税務署より「納税義務継承のお知らせ」と題する文書を受け取りました。その内容は、①私の叔父Aが平成二十年九月三十日亡くなったこと②Aには国税の滞納があること③滞納がある者が亡くなった場合には、相続人へ納税義務が継承され、相続人が国税を納付しなければならないこと、④但し、相続人が相続放棄をしている場合には納税義務は継承されないこと、そして最後に該当税務署に納税義務の継承について連絡せよ、特に相続放棄手続きをしている場合には連絡せよ、というものです。
二 私は平成二十二年九月二十一日東京家庭裁判所に相続放棄申述の申立てをしたところ、十月十日相続放棄申述却下の審判を受けました。その理由とするところには前述①②③④のほかに⑤他の相続人は相続放棄の手続きをとっていること、⑥私か税務署から六月一日に上記書類を受領後民法九一五条所定の三か月の期間内に相続放棄の申述手続きをせず、その伸長申立てもしなかったこと。⑦私の相続放棄申述の理由としてあげているのは、A宅との付き合いがなく財産が不明であることを主張しているが、私が平成二十二年六月一日にはAの相続人であることを知りながら民法九一五条所定の申述期間内に相続放棄申述の手続きをしなかったのだから却下はまぬがれないとするものです。
三 Aは私の父の弟ですが、税務暑の説明では、Aの妻子は既に相続放棄をしており、父以外の兄弟も相続放棄しているとのことです。私の父は十年も前に亡くなっており、私が父の地位を代襲したこととなり相続人となったのです。しかし、そもそも私はA宅とは父死亡後疎遠となっており、Aの遺産や相続について、何も聞いていませんし、知りません。そこで私は、Aの妻子や父の兄弟に、Aの財産や債務について尋ねても何も教えてくれませんでした。私は二か月ほど放っておいたのですが結局相続放棄しようと決心して関連する書物を読んだり家庭裁判所に尋ねたりして、書類を作り上げ、相続放棄申述の申立てをしたのです。
四 このような事情のもとでも私は相続放棄を認められず、Aの納税義務を負うこととは納得できません。私はAの税金を負わなければならないのでしょうか?
一 貴方は、税務署から「納税義務継承のお知らせ」を受けとったとき、本来的には、まず相続放棄申述期間の伸長の申立てをしておくべきでした。そして、相続放棄申述の期限を九月一日以降に延長してもらった上で、今度はこの新たな期限までに、Aの財産や債務はどうなっているか調査して結論を出し、放棄がよいとなったら、伸長された期間内に相続放棄申述の申立てをしておくべきでした。
二 貴方のように、いきなり相続放棄申述の申立てがなされたとき、家庭裁判所は、一般的には①Aが死亡したこと、および②自己のために相続が開始したことを知った時から、相続放棄申述期間が始まるとして、Aが死亡して貴方が相続人となったことを知ったときから、即ち、貴方のような事情であれば、税務署から「お知らせ」を受け取った時から三か月以内の場合は、放棄申述を認めてくれると考えられます。しかし。お尋ねのようにこれも三か月を過ぎてしまうと難しいと言わざるをえません。従って家庭裁判所の審判は原則に沿ったもので一応やむを得ないと言えます。
三 ところで、裁判例では、相続放棄申述の期間経過の理由が、被相続人の相続財産が全くないと信じたこと、相続人と被相続人との生活歴等から相続財産の有無を調査することが困難で、相続人においてこのように信ずるにつき相当な理由のあるときは期間を伸長すべきであるとしています。
四 そこで、貴方の場合はまず調査のため期間伸長をしておくべきでしたがこれをしていません。しかし、相続放棄申述はしています。貴方のこの申立ては三か月を過ぎているとして認められなかったのですから、貴方はこの審判に対して、直ちに不服申立てをしておくべきでした。不服申立手続きについては、前述のとおり過去の裁判例からみて、貴方の言い分をしっかり理解してもらえれば認められる可能性はあったのです。ところで、審判に対する不服申立期間は二週間以内となっており、貴方は家庭裁判所の審判書を受け取った日から二週間以内にこの申立てをしておかなければならないのです。お尋ねの現在では二週間を経過しており、時期遅れとなり認められません。結局、貴方は相続人としてAの納税義務を負担せざるを得ない状況であるといえます。
弁護士 塩味達次郎