相続人の中に判断能力のない人や行方不明者がいる場合の遺産分割

実家の父が亡くなり、相続人は、母と私と姉妹と弟の5人です。
しかし母は、4~5年位前から、アルツハイマー病のため老人性痴呆の症状を呈し、昼間でも徘徊して、自宅がわからなくなり帰ってこれなくなったり、近所のスーパーで、お金を払わずに商品を持って帰って来てしまい、派出所に保護されたり、ガスを点火したのに、消し忘れたりと、父亡き後、一人暮らしは危険なため、施設に入所させております。
このようなわけで、母は一人で日常生活ができない状態で、判断能力も全くないと思われます。また、弟は5年位前、海外出張中に行方不明となったままです。そのため、相続人全員による遺産分割協議ができません。
このような場合、父の遺産を分割するには、どうしたら良いでしょうか。

一 遺産分割協議は、判断能力のある共同相続人全員で行う必要があります。しかし、ご質問のケースでは、①母親は、判断能力が全くない状態、②弟は行方不明とのことで、共同相続人全員で遺産分割協議をすることは不可能です。

二 そこで、判断能力のない母親については、母親を代理して、遺産分割協議を含む母親の財産管理をしてくれる人を、家庭裁判所に選んでもらう必要があります。
そのために成年後見制度があり、自分の財産について全く管理処分することができない人のために、成年後見人を選んでもらい、本人の代わりに遺産分割協議や、その他の財産管理をしてもらうことになります。
そこであなたは、母親について成年後見開始審判の申立を家庭裁判所になせば、家庭裁判所は、弁護士などの専門家を、母親の成年後見人に選任します。そこで、父の遺産についての分割協議は、母親の成年後見人を交えて行うことになります。

三 次に、弟は行方不明で、やはり遺産分割協議ができないとのことですので、弟を代理して遺産分割協議を含む弟の財産管理をしてくれる人を、家庭裁判所に選んでもらう必要があります。
そのために、不在者財産管理人という制度があります。あなたは、弟について適当と思われる者を候補者として推薦して、不在者財産管理人の選任申立を家庭裁判所になせば、家庭裁判所は調査のうえで、弟の不在者財産管理人を選任します。

四 従って、父の遺産については、ⅰ母親の代わりに成年後見人ⅱ姉ⅲあなたⅳ妹ⅴ弟の代わりに不在者財産管理人の五者が、分割協議をすることになります。そして、この五者で遺産分割について、合意ができれば、遺産分割協議書(案)を作成します。
そして弟の不在者財産管理人は、予め家庭裁判所の許可を得た上で、前記の五者全員が署名捺印すれば、遺産分割協議が成立します。

五 仮に遺産分割協議の話し合いがつかない場合は、あなたは家庭裁判所に遺産分割調停の申立をし調停手続きの中で、話し合いをします。遺産分割を調停で行う場合にも、協議の内容即ち調停条項について、事前に家庭裁判所の許可を要します。調停で話し合いが決裂し、調停が成立しない場合は、遺産分割審判の手続きに移行し、審判官が公平の立場から、遺産分割の審判をすることになります。

弁護士 塩味達次郎