派遣切りにあった場合の対処法

一 私の息子は、調理師学校を卒業して調理師となり、都内の割烹料理店に勤務していました。しかし、三年もしないうちに上司と折り合いが悪くなり、そのお店を退職してしまいました。
その後、正職員の調理師として採用してくれる就職先を探しましたが、見つからなかったので、やむなく人材派遣会社に登録をして、派遣会社から都内の結婚式場を兼ねたホテルに派遣されて働いています。派遣の条件は、期間二年間、勤務日は土日を含む週五日で、勤務時間は午後2時から午後10時まで、給料は派遣会社から日給を月末に一括して支払うというものです。

二 派遣先の職場は、責任者以下数名のベテラン調理人がいる活気のある職場です。派遣された人員としては調理人は息子を含め数人と配膳を担当する女性十数人の大きな職場です。息子は新しい職場で張り切って仕事に取り組み、仕込みのための早出や後片づけの残業もいとわず働きました。

三 派遣されて働き始めてから息子の勤務ぶりがよかったのか、契約は三度更新されました。二年契約の半ばの昨年一二月末に、突然息子は派遣会社から、派遣先の業績不振のため翌年一月からの雇止めと、暫く自宅待機してくれと言われてしまいました。
息子の見方ではホテルの営業は年末も不振とは思えなかったとのことです。息子は理由もなく派遣先から雇止めをうけ到底納得できません。何らか救済を受ける方法はないのでしょうか。

一 息子さんは、現在マスコミで連日報道されている所謂派遣切りにあったと思われます。
派遣労働は、①派遣される労働者と派遣会社との有期労働契約と、②派遣会社と派遣を受ける企業(派遣先)との労働者派遣契約という企業間の契約とで成り立っています。
また、類型としては、無期雇用と、有期雇用であっても契約更新を反復して、契約の長期化しているものをあわせて常用型と言い、これ以外の予め派遣会社に登録をしておき、仕事があるときだけ派遣される登録型とがあります。そして、派遣法の法規制も少し異なります。

二 ところで、息子さんの勤務条件は、勤務類型としては常用型となり、息子さんは常用雇用労働者となります(派遣法2条5項)。また、派遣先で勤務を始めてから更新を三度しているとのことですから、そもそも短い時間を定めて更新を繰り返すことをしないよう配慮しなければならない(労働契約法17条2項)と規定している法に違反しています。また、この点を主張しないとしても、期間の定めのある労働契約については、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない(労働契約法17条2項)とされています。

三 やむを得ない事由の有無は、客観的かどうかが問題となります。息子さんの場合は、この点がまず判断されなければなりません。
現在、派遣切りと言って、派遣労働者を雇止めする風潮が広がっています。派遣を受け入れている事務所が実際にはまだ十分派遣労働者を雇い続けることができるのに、この際、派遣労働者の雇止めをしてしまおうと考えて、これを行うことは許されません。

四 そもそも常用型派遣では契約期間は労働者及び派遣先が合意により決定したものであり遵守されるべきものです。雇止めがやむを得ない事由によるかどうかの判断は、①客観的に合理的な理由があるか否か、②社会通念上相当であると認められる程度か否かなどが考慮されます。

五 息子さんは、まず派遣先に対して労働契約法に違反していることを主張して、雇止めを撤回するよう申し入れることができます。申し入れに応じないときには、裁判所に提訴することになります。
これに対して派遣先事業所が上記事由を証明したとしても、息子さんが言うような状況であるなら、裁判所は容易には雇止めを認めず解雇の継続を命じてくれるでしょう。
なお、仮にやむを得ない事由があるとして雇止めが法律上認められたとしても、その場合は、派遣会社に対して少なくとも三〇日前の予告が必要ですから(労働基準法20条)30日分の賃金を請求することは当然として、契約期間途中での契約打ち切りですから何らかの金銭的解決を求めることができます。
なお、派遣会社には新たな派遣先の提示を求めることになります。

弁護士 塩味 達次郎