母に前夫との間の子供がいた場合の遺言執行
一 昨年暮れに母が98歳で死亡しました。私には弟と妹の兄弟がいます。父は10年前に死亡しています。父の相続の時には遣言書はありませんでした。分割協議では相続税の支払いを考慮して、母が自宅や貸しアパート、貸し駐車場、田畑の半分をほぼ相続し、他の半分を私か相続することとなりました。弟も妹もわずかな印鑑押捺代で同意してくれました。
二 この度母が亡くなったことで、相続が開始されました。母は遣言書を作成していて、私は遺言執行者に指定されていました。私は遺言書に従って遺言執行をしようと相続人の確定のため被相続人である母の生涯戸籍を集めたところ、母が父との結婚の前に他の男性と結婚して男子が1人(甲)を生んでいることがわかりました。母の最初の結婚相手は戦死していたので母は甲を夫の家において私の父と再婚していたのです。
三 私は以前父母の戸籍謄本を見たことがありましたが、母が父と結婚する前に他の人と結婚していたことを知りませんでした。母は遺言書で財産の大半を私に、また弟と妹にそれそれ金1千万円を相続させるように書いでありました。私は遺言執行者として今後どうしたらよいのでしょうか。
一 戸籍は、原則として夫婦と未婚の子を記載し、そこにはそれぞれ当事者の出生と婚姻の事実が記載されます。また身分関係に変化が生ずる養子縁組や離婚・離縁があった時もその事実が記載されます。しかし、転籍すると出生と最後の婚姻関係や養親子関係のみが記載され、それ以外の事実は記載を省略されます。従ってあなたの母上も父上との婚姻によって従前の戸籍から移ったため、従来の事実、即ち婚姻、子の出生や夫の死亡が記載されなかったことになるのです。父上はこれらの事実を知りながら子供達には告げずにきたものと思われます。
二 相続が発生すると被相続人の出生から死亡まで戸籍の連続が要求されるため、お尋ねのように全く知らなかった人が相続人として登場することがあります。貴方は遺言執行者ですから母親の生涯戸籍を調べる過程で母親の最初の結婚で生まれた人である甲さんを知ることになったのです。人にはいろいろな歴史があります。
三 貴方としては複雑な思いも起こりうるでしようが、事務的には甲さんに相続が発生したことを知らせ、相続財産目録をつくって送ることと遺言書があることを通知しなければなりません。そのうえで貴方は遺言執行を実施することになります。弟さんや妹さんは話し合いで解決できるでしょう。問題は今日まで連絡も一切なく突然相続人となった甲さんとの関係です。話し合いの上で相続放棄をしてくれるとか、相続分の無償譲渡をしてくれればありがたいところですが、遺留分を請求されたときには事務的に計算して処理するしかありません。遺留分は相続分の2分の1ですから8分の1に相当する遺産を分与することになります。
四 遺留分を要求する権利即ち遺留分減殺請求権は遺留分権利者が自己の権利が侵害されたことを知った時から1年で請求権を失います。従って甲さんへの通知は配達証明付き内容証明書によって行っておくことをお勧めします。1年間甲さんから何の連絡がなけれほぼ上の遺言通りに遺産分割が終わります。甲さんから請求があって分割が難航するときには家庭裁判所で分割することになります。
弁護士 塩味達次郎