未成年者による自転車事故と親の損害賠償責任

一 私の高校一年生の息子は、自転車で通学途中、以下のような交通事故にあってしまいました。

二 息子はいつものように自宅から通いなれた道路を自転車で走行していました。息子は自動車の交通量の少ない、歩道がない幅員四メートルの道路を時速20キロメートルぐらいで進行中、見通しのよくない交差点に差し掛かったところ、交差する道路を息子から見て右から左へ通過しようとする自転車と道路中央で双方の自転車の前輪同士が衝突して、共にその場に倒れこんでしまいしました。相手の方(甲さん)の速度はわかりませんでしたが、さほど早くは感じられなかったようです。しかし、息子は甲さんが目の前に来た時には急停止して避けることができず衝突してしまったようです。

三 息子は倒れた体の部分は痛かったようですが、すぐに起き上がり甲さんの様子を見たところ、甲さんはすぐには起き上がれず倒れたままでした。そこで、救急車を呼び病院へ搬送されることになりました。甲さんは67歳の女性でこの事故で腰の骨を複雑骨折してしまったそうです。そしてそのまま入院して治療を受けることになりました。

四 息子の傷は大したこともなく回復しました。息子はその後、警察の調べや実況見分に立ち会ったり、検察庁で取り調べを受けたりしましたが、結局刑事処分は何もなされないことになりました。

五 甲さんは、事故後六ヵ月入院し、現在も通院中のようです。息子は入院中、何度か見舞いには行ったようです。甲さんは息子さんや娘さんを通じて、私や妻に未成年の息子さんが起こした事故だから、この事故によって甲さんが被った損害を賠償してくれと要求してきています。損害の内容は治療費、入院費、入院雑費、慰謝料等で、多額な要求をされています。

六 私も妻も、息子の起こした事故で申し訳ないとは思うのですが、損害賠償をしなければならないのかどうかわかりません。どうすべきでしょうか。

一 あなたの息子さんは、未成年ですが、現在高校一年生であなたがた両親が常に行動を指揮したり監視したりすることはできません。そのような場合、未成年の子どもの行為について子供が第三者に損害を与えるなど不法行為をしたとしても、親には損害賠償責任はありません。子供が未成年の場合、子供の行為について親が責任を負わなければならないのは子供に対して親の監督権が及ぶところまでです。

二 そもそも親が未成年者の行為能力を代理したりする制度は未成年者の財産の管理を前提に制定されているので、未成年者が第三者に損害を与えることを想定しているものではないのです。従って息子さんが甲さんに交通事故による損害を仮に与えたとしてもあなた方両親に損害賠償責任はありません。
しかし、息子さんの行為に何らか親がかかわっている場合に裁判所は損害の公平な分担という見地から親の責任を認める傾向があります。このケースでは親のかかわりを考えることは難しいと考えられますので親の責任を問うのは難しいと考えられます。

四 ところで、そもそもあなたの息子に損害賠償責任があるかどうかも疑問です。警察や検察庁の捜査でも、結局刑事責任は問われなかったのですから、民事上も責任があるかどうかは刑事上の判断とは別に民事上の観点から検討した上でないとわかりません。民事上責任があるとなれば、息子さんは損害賠償責任を負う可能性があります。その場合でも息子さんには支払能力がないと考えられますので、甲さんは賠償はうけられないでしょう。

五 あなた方は、甲さんに対して法的責任はないが、倫理的に賠償するかどうかに尽きることになります

六 自転車事故は、まだまだ損害保険や共済保険に加入していないケースが殆どです。このような場合に備えて保険や共済に加入しておくといざというときに助かるので、自転車を購入した時はなるべく早めに保険や共済に加入しておくべきでしょう。

弁護士 塩味達次郎