指輪のプレゼントで婚約が成立したといえるのか
私の息子は、友人の紹介で甲女と交際をはじめ、2年間ほど交際を重ねてきました。ところで、私宅では、将来息子には現在勤務している会社をやめて、農業を継いでもらうこととなっているため、過日、息子が甲女にその旨話したところ、甲女は絶対に嫌だと断ったことから、息子は徐々に甲女に対する愛情が薄れていってしまいました。
私は息子の前記のような事情を知らないで、親戚から息子の嫁にどうかと縁談をもちかけられたので息子に話したところ、息子も乗気で、話はとんとん拍子に進み、いよいよ結婚式を控えた頃に、甲女から息子に「結婚を約束して交際していたのに、今になって裏切ったのは許せない。慰謝料として500万円を支払え」という要求をされてしまいました。甲女の言い分は、①息子が結婚を前提として交際しようといったこと、②息子と肉体関係を長年に亘って続けてきたこと、③息子から甲女に婚約指輪をプレゼントしていること、④息子が甲女の両親と顔合わせをしていること、から結婚の約束ができていたので、これを破るのは、婚姻予約の不履行にあたり、損害賠償請求するというものです。
息子の話では、①結婚の話はしたことがないし、②指輪は確かにプレゼントしたが、交際中にクリスマスプレゼントとして3万円位のものを買ってプレゼントしたのであって、婚約の意味はなかったということであり、③甲女の両親と会ったのも、夜遅くなってしまった時に甲女を家まで送ったとき、両親が出てきたのであいさつを交わしただけだ、とのことでした。
息子は甲女の500万円もの要求に応じなければならないのでしょうか。
一 結論からいえば、応ずる必要はありません。婚姻予約不履行というためには、何よりも婚姻予約が成立していなければなりません。
①まず、息子さんは明確に甲女と婚姻予約、即ち、婚姻の約束をしていないとのことです。
②次に、甲女が婚約指輪と主張しているのは単なるプレゼントというべきです。なぜなら、婚約指輪というのは一般的に、価額は給与の一ヶ月分以上といわれ、裏面にプロポーズした日か結納の日の日付と誰から誰へとアルファベットのイニシャルを刻印した指輪を授受するとされています。従って、息子さんが甲女に贈った指輪は、婚約指輪というには無理があります。
③また、息子さんが甲女を送っていったときに両親にあったのは、単なる偶然であり、顔合わせというものでもありません。
従って、婚約は成立していないため、甲女の要求には応ずる必要はありません。
二 尚、仮に息子さんと甲女との婚姻予約が認められるとしたとき、甲女の要求が認められるには、具体的な損害の立証が必要です。例えば、結婚の為に退社したことによる損害、嫁入道具を買ったことによる損害、結婚式場を予約してあったがキャンセルをしたために支払ったキャンセル料、等で、ただ単に精神的損害を蒙ったからといって、慰謝料だけでは500万円にはならないでしょう。
三 ところで、現在の男女の交際事情は、一定程度開放的になっている面もありますが、それは反面、結婚に結びつかないときには深刻な紛争を惹き起す危険もはらんでいます。それだけに、結婚に至らなくなったときは、その善後策として、誠意ある十分な話し合いをするなどの対応を求められると思われます。
話し合いを重ね、どうしても話し合いが成立しないときは、家庭裁判所に男女関係解消の調停申立をするなどして、問題の解決を図るようにすることをお勧めします。
弁護士 塩味達次郎