成年後見人選任申立について
一 私の従姉妹の甲さんは現在93歳で介護施設で暮らしています。甲さんの夫は既に死亡しており、夫妻間には子どもがいません。甲さんには兄弟もなく、一番身近な親族は私ともう一人の従兄弟乙さんだけですので、万一甲さんが死亡したとき推定相続人は誰もいない状態です。甲さんは貸家や貸地を多数所有し、多額の預金も保有しています。
二 甲さんは、昨年まで健康で判断力もはっきりしておりました。その頃甲さんは、従兄弟の乙さんに、自分の先のことを心配して、もしも自分が呆けたら財産の管理を頼むと言って、委任状を書いて渡していました。そして今年になって時々認知症のような症状がでてくるようになったので、介護施設に入ることになったのです。
三 乙さんは、昨年甲さんから委任状を受け取ると同時に、管理を委任されたのだからと言って、土地や家屋の権利証、預貯金通帳、その他の重要書類や実印を受け取って、保管しています。そして、代理人として家賃や地代を受取り税金を支払うなど財産管理をしています。
四 甲さんは、時によって判断能力が正常になったり、痴呆の症状が出たりと言う状態です。甲さんは、判断能力が正常になっているときに面会に行った私に、「自分は乙さんに何も委任した覚えはないのに、乙さんが自分の財産を全部管理していで自分は一円も自由にならない。乙さんから財産を取り返して欲しい。」と頼んできました。
五 私は、乙さんにそのことを伝えたところ、乙さんは立腹して「自分は甲さんの判断能力がはっきりしているときに財産管理を委任されたのだから、預かっている書類や印鑑等は返さない。」と言ってきました。
六 乙さんの反応を不審に思った私は、財産管理状況を調査したところ、乙さんは甲さんの財産から多額の金を自分のために使っていることが判りました。
七 私としては、従姉妹の甲さんが可哀想だと思うと同時に。これでは甲さんの生前に財産が乙さんによってどんどん使われてしまいそうだと危惧しています。このような場合、甲さんのためにはどうすべきでしょうか?
一 甲さんが乙さんに依頼した財産管理の契約内容が具体的にはどの様な内容であったかはっきりしませんが、お尋ねの場合、乙さんは甲さんから、委任状をもらっているだけですので、甲さんが正常な判断能力を回復しているとき、乙さんに委任契約の解除する旨の意忠表示をすれば、乙さんは受任者ではなくなり、預かっている財産関係の重要書類等を返還しなければなりません。
二 甲さん本人は時には判断能力が正常でなくなったりすることはあっても、正常であるときには、自己の意思に反して管理がなされていると主張しているのですから、貴方としては、まず乙さんに、委任契約の解除に応じて甲さんの財産関係の重要書類や金品を返還するよう忠告すべきでしょう。仮に乙さんがこれを無視して返還に応じないのなら。貴方は従姉妹で四親等内の親族ですので甲さんのために家庭裁判所に後見開始の審判申立てし、後見人を選任してもらいます。後見人は甲さんの財産について全面的に管理権を有していますので、乙さんに預けた重要書類や金品の引渡しを求めることができますし、乙さんがこれに応じなければ裁判を起こしてでも取り返すことができます。
三 成年後見開始の申立てが出来るのは、本人、配偶者、四親等内の親族です。貴方は、甲さんの従姉妹ですから、前述の通り親族に含まれます。申立てをする裁判所は本人(被後見人)の住所地の家庭裁判所です。裁判所は必要に応じ本人の鑑定をし、本人に面接して、後見開始が適当と考えたときには、後見人候補者の意見を聞き、後見人を選任して、後見開始の審判をします。裁判所は本人めために最も適した人を後見人に選任します。後見人は一般的には親族が選任されますが、親族間で意見が異なるときは法律専門家が選任されることになります。そして以後は後見人か被後見人の法律行為を行うことになります。
四 甲さんのためには家庭裁判所に後見人を選任してもらうのが一番良いでしょう。
弁護士 塩味達次郎