成年後見人・保佐人の選任申立
私の兄は、年齢が七〇歳ですが、元気に種々のボランティア活動に飛ぴまわっておりました。しかし、最近事故に遭い脳に損傷を受け妹の私の顔もわからない状態になってしまい病院に入院したまま兄嫁は既に亡くなって、兄夫婦には子供がいません。兄は、預貯金や賃貸不動産を所有していますが、預貯金の払い戻しや不動産などの管理、交通事故による損害賠償請求の示談交渉はどうしたら良いでしょうか。
一 あなたのお兄さんは、精神上の障害により判断能力がない状態にあると思われますので、妹であるあなたから、家庭裁判所に、後見開始の審判の申立をし、お兄さんについて、後見開始の審判をしてもらうと同時に成年後見人を選任してもらい成年後見人にお兄さんの財産管理や交通事故の示談交渉をしてもらうことにしたら良いでしょう。
成年後見人には、全面的な代理権が認められますので、例えば、預貯金の預入や払い戻し、不動産の売買などを本人に代わってやれるのです。また、本人が行った契約などで本人に不利なものについては、本人または成年後見人が契約を取り消すことができるのです。
二 この様に、成年後見の制度は、痴呆性高齢者や知的障害・精神障害者一事故による脳損傷または脳疾患による精神障害者などの判断能力が全くなかったり、または著しく不十分だったり、または不十分な状態の人に、後見人・保佐人・補助人をつけて、本人の財産を保護してあげるものです、本人の判断能力の程度により、Q2のように判断力が著しく不十分な場合には保佐人がつけられたり、Q3のように判断力が不十分な場合には補助人がつけられたりします。いずれの場合も、裁判所は専門医師の意見を聞いた上で決定します。また、いずれの場合も食料品や嗜好品などの日用品の購入その他日常生活に関する行為については、本人が自分でやれることになっています。
母は父死亡後、老後の資金としての預貯金と賃貸アパートを所有していますが、最近。一人娘の私が知らないうちに、母の預貯金から一〇〇万円単位で何回かお金がおろされているのに、母は自分でおろしたのかどうか、何に使ったのかも全く覚えていないのです。このような毋が借金の連帯保証人にさせられたりしては困ります。どうしたらよいでしょうか。
お母さんは、預貯金から高額な払戻があったのにも拘わらず、自分では何に使ったのかも覚えていないということですので、精神上の障害により判断能力が著しく不十分な状態になっていると思われます。娘であるあなたから家庭裁判所に保佐開始の審判を申立てお母さんに保佐人を付けてもらうのが良いでしょう。保佐人が付けられれば、民法第十三条に規定されている不動産や重要な財産の取引契約を行うには、保佐人の同意が必要となり、保佐人の同意がなければ、お母さんは預貯金をおろすことや、連帯保証人になることもできなくなります。もし、お母さんが保佐人の同意なしにこれらのことをやったとしても、保佐人はこれらの行為を取り消すことが出来ますから安心です。
実家の母は一人尋らしで、父が遺したアパートの家賃収入と年金で暮らしていますが、最近、「家賃の集金や計算とか、賃借人とのアパートの賃賃借契約などが自分一人では出来なくなってきた。」とこぼすようになりました。そこで、私も何とか手伝ってあげたいのですが、夫の転勤で遠くに住んでおり、すぐに役に立ってはあげられません。どうしたら良いでしょうか。
お母さんは、軽度の精神上の障害(痴呆)により、判断能力が不十分と思われます。
そのような軽度の痴呆・知的障害・精神障害等のある人を保護するため、補助の制度が設けられていますので、お母さんの同意を得てあなたから家庭裁判所に補助開始の審判の申立をすればお母さんについて補助開始の審判がなされると同時に、補助人が選任され、補助人が特定の法律行為(例えばアパートの貸借契約の締結・変更・解除、賃料の請求と受領)について代理権を持ちますので、補助人がお母さんに代わってやってくれることになります。
弁護士 塩味滋子