息子が霊感商法に騙された
一 私の息子は、日頃から運勢や占いが気になる性格です。少しでも嫌なことがあると何か原因があるのではないかといつまでも悩むようなところがあります。
二 2カ月ほど前に新聞の折り込みチラシに、ある宗教団体がホテルで「人生相談会及び特別鑑定会」を行うという記載があるのを見て、鑑定をしてもらいに行ったそうです。そして、その鑑定場所で、息子は勤務していた会社が倒産したことや、結婚前に中絶したことが影響しているのか結婚後も妻との間で子供に恵まれないことなど相談したそうです。
すると霊能者と称する鑑定にあたった者は、息子に「先祖供養が十分でないので先祖が怒っている。また水子が霊界に行けず迷っている。御先祖様の怒りを鎮め、水子の供養のため三日間祈祷を行ってやるが、祈祷料は200万円である。」と言われ、息子は貯金を下ろして支払い祈祷をしてもらいました。
三 その後、鑑定者から連絡があり、「悪い運命を追い払い開運するために、印鑑を作りなさい。そうすれば、悪い運勢が変化し、子供にも恵まれ、悪いこともなくなる。」と言われたそうです。印鑑の代金は50万円とのことです。息子は藁にもすがる思いでこの金も支払い、印鑑を作りました。
四 そして、その後息子としては良い結果が出てくる筈だと考えていたのですが、半年経っても何の変化もなく、却って交通事故にあったり体調不良になったり好くないことが続く有様であったので、そのことを霊能者に告げると、交通事故については「祈祷をしていたからこの程度で済んだがしていなかったら確実に死んでいたし、体調ももっと悪くなっていた。」と言われてしまい、更に「祈祷を継続するために、あと200万円を納めなさい。」と言われたそうです。
五 この言葉に息子も初めて疑いを抱き私に相談を持ちかけてきました。
私は、息子は騙されたと思っています。息子は金を取り戻したいと考えていますが、できるでしょうか。またそのためにはどうしたらよいでしょうか。
一 私たちは誰もが漠然と先行きに不安を抱いて生活しています。従って、何か不幸な出来事が重なると、運勢が悪いのか、そうであるなら何らか好転のための方法はないかと模索したくなるものです。
二 一見すると相談者であるあなたの息子さんは、自由意志で相談会に行き相談を申し込み、その結果祈祷を頼み、更に印鑑も作っているわけで、全て息子さんの選択によって祈祷行為と印鑑作りが行われたとも考えられます。しかし、祈祷料や印鑑作成費は世間一般に考えられている額を大幅に上回るものです。
三 不幸な出来事が重なり心理的に窮迫している時に、相談にあたる者が相談に来た者にことさらに不安を煽り恐怖心を起こさせたり、自分に特別の能力があるように装って相談に来た者に正常な判断能力を失わせて祈祷行為を行うと称して、通常考えられないほど過大な金額の支払いを要求し支払わせるような行為は、社会生活上相当性を欠き違法な行為と考えられます。
その場合、相談に行った者と言えども鑑定者でもある祈祷者に対し、支払った金は不当に騙し取られたものと言うべきで、相手の行為は故意による不法行為にあたると考えられます。印鑑を作らされたことも同様に考えられます。従って、息子さんは金を支払った相手方に対し、支払った金の全額の返還を求めることができます。
四 具体的には、まず相談会を実施した団体と相談担当者に対し、文書による請求をなし、応じてもらえない時は訴訟を提起するしかありません。最近このような事例が増加してきており、息子さんのような被害者を救済する判決が出てきています。
五 現代の社会は、日々変化が激しく予測が困難となってきており、彼もが将来の生活に漠然とした不安を持っています。しかし、そうした不安に付け込む悪質な運命鑑定や祈祷行為には近づかないという生き方が大切と言えます。
弁護士 塩味 達次郎