思い出の品やペットに関する慰謝料請求

一 私は、10年前に柴犬を飼い始め、「小太郎」と名付けて家族同然に暮らしてきました。ところが、ある時、私が小太郎を連れて散歩していたところ、後ろから猛スピードで走ってきた自転車に小太郎がひかれそうになったため、私は小太郎を庇って転んでしまったのです。幸い、私に怪我はなかったのですが、10年前に観光地で買ったガラスのペンダントがはずれ、粉々に砕けてしまいました。
相手は、ペンダントの代金を弁償するとは言っているのですが、そのペンダントは私にとって思い出の品であり、また大変気に入って毎日のように身に付けていたものですので、代金だけの弁償では納得できません。
私は、ペンダントを壊した相手に、慰謝料も請求したいのですが、それは可能でしょうか。

二 また、この事件の翌日、小太郎の食欲がないので心配になり、近くの動物病院で小太郎を診てもらいました。獣医さんは、全身のレントゲンを撮るなど検査をしてくれたのですが、特に異常はないので、精神的なものだろうと言って、治療の必要はないとの診断でした。
ところが、それから2カ月くらいたった頃、小太郎の様子がおかしいので、別の獣医さんに診てもらったところ、頭部に腫瘍があり、もはや手遅れだと言われてしまったのです。その獣医さんの話では、2カ月前に腫瘍を発見できていれば、手術で助かっただろうということでした。結局、小太郎はそれから1週間もしない間に亡くなってしまいました。
私は、家族同然に暮らしてきた小太郎がいなくなってしまい、数日は茫然としてしまいました。最初の獣医さんが腫瘍を発見していてくれたら、小太郎は助かったのかと思うと、悔しくてたまりません。
小太郎が人間であれば、動物病院に医療過誤として、慰謝料を請求できると思うのですが、犬の場合にも慰謝料請求の請求は出来るのでしょうか。

一 ペンダントに関する慰謝料について

慰謝料の意義については諸説ありますが、一般には、非財産的な損害に対する賠償、より具体的に言えば「精神的損害等の無形的な損害に対する賠償」と理解しておけば足りると思われます。
そして、法律上、物に対する慰謝料については、基本的には認められていません。なぜなら、物については、財産的損害が賠償されることにより、慰謝もされたとみなされているからです。慰謝料が認められるためには、財産的損害の賠償では足りないほどの精神的な損害を受けた等、特別な事情が必要なのです。この特別な事情については、事実上ほとんど認められないのが実情です。
本事例におけるペンダントは、相談者にとっては非常に思い入れのある、大切な物のようですが、法律的にはあくまで一つの「物」に過ぎません。従って、仮にその財産的な損害の賠償が認められるとしても、慰謝料までもが認められる可能性は低いと言わざるをえません。

二 ペットに対する慰謝料について

次に、ペットである「小太郎」についての慰謝料ですが、これは認められる可能性が高いと言えます。
法律上、人間以外の事実的な存在は「物」として扱われますので、ペットも法律上は「物」に過ぎません。従って、本来的には、前記のペンダントと同様、慰謝料は認められないはずです。
しかし、家族のあり方が変化し、ペットも家族の一員として扱われるようになったという時代背景を反映して、近時の判例は、「子供の代わり」、「家族の一員」などの表現を用いつつ、ペットに対する慰謝料を認めるようになっています。しかも、日常生活におけるペットの地位の高まりから、その慰謝料額は高額化の傾向にあるようです。
もっとも、いかに家族同様の存在とは言っても、ペットの慰謝料額は、人間の場合と比べれば、非常に少額でしか求められていません。
本事例においても、「小太郎」は家族同然の存在として、10年の長きにわたって生活を共にしてきたのですから、獣医の過失や死亡との因果関係など、損害賠償に関する他の要件が立証できれば、「小太郎」の死亡についての慰謝料請求は認められるでしょう。
但し、その慰謝料そのものの額については、具体的な事情にはよるものの、下手をすれば数万円、良くてもせいぜい30万円程度であろうと思われます。

弁護士 塩味 達次郎

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