年老いた父の再婚問題

私の実家は農業で、私は結婚して他県で暮らしています。兄妹は兄が一人いて、実家は兄夫婦が農業を継いでいます。母は既に亡くなっています。
兄夫婦は、昼間は農作業をやっていますが、実家から少し離れたところにある父の貸家に父とは別に暮らしています。父は実家で一人暮らしで、身体は健康ですが、少し呆けが始まっているようです。
最近わかったことですが、いつの間にか、私の実家に中年の女性が出入りし、父の面倒を見る為通って来て、時々は泊まっているらしいことがわかりました。父に尋ねたところ、何かのきっかけで知り合って親しくなり、その女性も一人暮らしで、お互いに淋しい同志なので話が合い、父の面倒を見る為に通っているうちにそのような仲になったとのことです。
私は驚いて父を問いつめたところ、父はその女性から、「これからも面倒を見てあげるから私を入籍してくれ」また、「私の連れ子を養子にしてくれ」と懇願されていると言うのです。私から見てその女性は、父のことを心底愛情をもって考えてくれているようには見えず、むしろ、父の財産を目当てに近寄ってきたことが明らかです。
私達兄妹にしてみれば、私達の実家が見も知らぬその女性とその連れ子に乗っ取られてしまうのではないかと心配です。どうしたらよいでしょうか。

一 ご質問のケースは、老親扶養や相続の問題を考えると、事態はかなり深刻な状況だと思われます。

二 父上に正常な判断能力があって真実その女性と婚姻をする意思があり、また、その女性の子と養子縁組をする意思があるとしたら。それを阻止することはできません。ご質問のケースでは、父上はまだ婚姻届も養子縁組届も提出していないようです。しかし。事態をこのまま放っておいて、もし仮に、父上が婚姻届と養子縁組届を出したとすると、将来父上の相続が起こった場合、相続は以下のようになることか予想されます。

(イ)父上の遺言がない場合

兄上が農業を承継して来たことにより遺産の中から一定の割合の寄与分か認められます。つまり。父上の遺産から兄上の寄与分を控除した残りの遺産の中から各人の取得分は、法定相続分として妻が二分の一、子は養子となった子を含めて三人ですので、子の各人は二分の一の三分の一ずつで六分の一ずつとなります。従って、父上の遺産の内から、兄上の寄与分を控除した残りの遺産の六分の四はその女性と連れ子のものとなってしまいます。

(口)父上の遺言がある場合

もし仮に「全財産をその女性と養子に相続させる」という遺言を作られた場合には。遺言が優先します。つまりあなたと兄上は、法定相続分の半分(二分の一ずつ)が遺留分として認められるに過ぎません。従って、仮に前記のような遺言を父上が遺した場合には、財産の六分の五が女性とその連れ子のものとなってしまいます。

三 以上が予想される最悪の事態ですが、あなた方ご兄妹としては素直に納得できることではないでしょう。とくに農業を承継した兄上にとっては、予想外の事態でしょう。
しかし。本件のケースは、老親の扶養という面を含んでおります。父上は身体は健康とのことですが、あなたが見ても少し呆け始めているというのなら、父上の判断能力に将来問題が起こりうるかも知れません。
そこであなた方ご兄妹としては、早速父上と話し合って父上の真意を確かめ、父上に婚姻届や養子縁組届を提出する真意があるのか否かを確かめる必要があるでしょう。
父上にその女性と真実婚姻する気があるのなら、阻止することはできません。しかし、父上が一人暮らしの淋しさから、その女性が押しかけてくるのを断りきれなかったというのが原因だとしたのなら、あなたは父上や兄夫婦とよく話し合って、父上をそのような淋しい一人暮らしにしておいてよいのかどうか話し合ってみたらどうでしょうか。
できれば、長男夫婦やその子供達が父上と一緒に実家で暮らすようにすれば良いのではないでしょうか。

弁護士 塩味滋子