定期借地権の利用について

私は幹線道路沿いに500坪の畑を所有しております。最近、量販店の業者がこの土地を借りたいと言って来ました。
私としては、当面の賃料収入が得られ、かつ、将来の相続税の納税対策として10年ないし20年後に必ず土地を返してもらえるならば貸しても良いと思います。どのような方法が良いでしょうか。

1 新しい借地借家法により認められた事業用定期借地権の設定契約をし、期間を10年以上20年以下とすれば、10年ないし20年後には必ず土地を返してもらえます。

2 このような短期の借地権が認められるようになった理由は、旧借地法では、土地を建物所有目的で貸すと、期限が来ても建物があれば地主が自己使用の必要などの正当事由がなければ更新を拒絶することができず、その結果、一旦土地を貸すとほぼ半永久的に契約は更新され、土地は返してもらえないことから、土地を貸す地主が減り、土地の有効利用に弊害を生じていたからです。

3 そこで、平成4年8月1日から借地借家法が施行され、新しく事業用に短期間だけ土地を利用する形態に適するよう事業用借地権が定期借地権として認められたのです。この事業用定期借地権は、①専ら事業の用に供する建物の所有を目的とするために借地権を設定すること、②存続期間を10年以上20年以下とすること、③公正証書で契約すること、が法律上の条件とされます。以上の条件を満たす契約の場合、契約の更新はできず期間が満了したら借地人は建物を取り壊して収去し、土地を更地に戻して地主に返還する義務があります(即ち、借地人は地主に建物を買い取ってくれということはできません)ので、地主は必ず土地を返してもらえるのです。

4 このように事業用定期借地権は、専ら事業目的のための借地契約で、期間も短いですから、地主にとっては建物を建てて貸すことにより建築費借入の負担や請負工事に伴う諸々のリスクを回避することが出来ますし、他方、借地人たる事業者にとっても長期契約ではないので権利金の負担も少なく、変わりやすい消費者の消費動向や嗜好の変化に応じて短期に投下資本回収可能な業種や店舗展開が可能となるという、双方のメリットが一致した契約形態といえるでしょう。

5 事業用定期借地権を利用した建物の用途としては、量販店、コンビニエンスストア、ファミリーレストラン、スーパーマーケット、百貨店、パチンコなどの遊技場、ガソリンスタンド、ビデオCDレンタルショップ、カラオケボックス、ホテル、事務所、倉庫、工場などの営業事業だけでなく公益的事業のための建物もありえます。

事業用定期借地権により、借地人は賃貸用アパート・マンションを建てることができますか。

 

できません。借地借家法24条では「居住の用に供するものを除く」と規定されているからです。従って、従業員のための社宅も事業用借地権では建てることはできません。

 

存続期間20年の事業用定期借地権設定契約をした場合、15年目に建物が火災により焼失した場合、契約はどうなりますか。

 

事業用定期借地権は存続期間が10年以上20年以下に法定されていますから、契約期間中に建物が滅失しても借地権は消滅しません。従って、借地人は賃料支払義務が続きます。しかし、契約の残存期間が5年ですので残存期間が短いため、借地人は再築しても5年後には取り壊して土地を更地にして返さなければなりませんから採算がとれないという酷な結果になるかもしれません。他方、地主としては、期間内解約に応じるか否かは預かり保証金の運用にも影響してくるので、簡単に解約に応じるわけにはいかない事情があるかもしれません。この問題の解決方法としては、①契約書に借地権者からの期間内解約を認める特約を規定しておけば借地人から解約できます。この場合、借地人は以後の賃料支払を免れることになります。②契約書の①の特約がない場合は、借地人は地主の了解をえて契約を合意解除する方法が考えられます。③また、双方合意のうえで、借地人が建物を再築するのに合わせて、その時から新しく事業用定期借地権設定契約をしなおすという方法も考えられます。

10年前に事業用定期借地権を設定した土地の契約期間が終了したのに、借地人が建物を取り壊さずそのままにして出て行ってしまいました。どうしたら良いですか。

 

借地人は契約期間が満了した時に建物を取り壊して土地を原状の更地に復して地主に返還する義務があります。しかし、借地人がこの義務を履行しない場合には、地主は借地人を相手方として、建物収去土地明渡の訴を裁判所に提起せざるを得ません。そこで、このようなリスク回避の自衛策として地主側は、建物の取壊費用にも充てられるよう予め契約時に相応の保証金を預かっておくのが良いでしょう。また、このような期間満了時のトラブル予防の為、予め期間満了時に地主が無償で建物を譲り受けるという特約をしておくこともできます。

弁護士 塩味滋子