婚約破棄に対する損害賠償請求
私は大学を卒業後大阪の企業に就職し総合職として勤務していました。そこで、取引先の営業マンの彼と知り合い交際するようになりました。交際を始めて三ヶ月ぐらいしたとき、彼から「結婚しよう」と言われ、これをきっかけに肉体関係をもつようになりました。その後結納を取り交わして婚約し、挙式日、結婚式場も決定しました。私は結婚式や披露宴の準備を進めながら嫁入り道具を調え、勤務先も結婚を理由に退職しました。そして、結婚式、披露宴の列席者の決定と招待状の発送など彼と絶えず相談しながら進めてきました。ところが、結婚式の一週間前になって突然彼から結婚する気持ちが薄れたので、結婚を取りやめにしたい、と言って来ました。その理由はそれまでの準備のため彼の母親とも様々な打ち合わせをしてきましたが、彼の母親が言うことには、私は常識が欠け、性格的にルーズで責任感が乏しく、体型的にも問題があるというものでした。私にはこの理由は到底納得できるものではありません。私は婚約の不当破棄として彼と彼の母親に損害賠償請求をしたいと考えていますが、請求ができるでしょうか。またできるとしたら、どのような請求ができるでしょうか。
一 あなたと彼との婚約は将来夫婦になろうと単なる口約束ではなく、あなたは勤務先をいわゆる寿退社をし、結納を授受したり、結婚式の招待状を発送したりと婚約自体を公然とさせていますから、彼の婚約解消の理由が正当事由がない場合には、婚約の不当破棄として損害賠償が出来ます。
二 そこで、彼及び彼の母親が言う婚約解消の理由が正当かどうかを検討する必要があります。あなたと彼は結納を取り交わし、なお結婚式の招待状をも発送したのですから、彼には婚姻意思があったと認められます。そして彼が公然と婚姻意思を表明している以上、彼の母親の言う、あなたが常識に欠け、性格的にルーズで責任感が乏しく、体型的にも問題があるという婚約解消の理由は彼の母親のあなたに対する一方的な評価に過ぎず、婚約破棄の正当事由とは考えられません。
三 ちなみに、婚約解消の正当事由として判例が認めたケースは「相手方が挙式の直前無断で家出して行方をくらました場合」、「相手方が他人と事実上婚姻した場合」等です。なお「相性、方位が悪い」、「年まわりが悪い」という理由では婚約解消の正当事由とは認められません。
四 彼からの婚約破棄は不当であり、彼の母親も彼に婚約を破棄させるような言動をして彼に婚約破棄を決意させたのですから二人が責任を負うべであると考えられます。彼の行為はあなたの予定していた安定した幸せな結婚の約束を破棄した債務不履行というべきであり、彼の母親の行為は婚約という契約の不当破棄に第三者として加担し、彼の決意を引き起こさせ、かつ彼の行為を後押ししたもので不法行為にあたると考えられます。あなたは彼と彼の母親に対し、婚約解消によって被った損害を賠償させることになります。
五 では、あなたは、彼と彼の母親に対し、どのような損害賠償請求が出来るでしょうか。
損害賠償請求が出来る範囲は婚約を有効と信じたことにより被った損害で、有形無形のものを含みます。まず、結婚準備のために費やした金銭の賠償、結婚式場や新婚旅行等の申込金やキャンセル料のほか、嫁入り道具購入代金(これには購入代金の七割とする考え方、購入した物品を売り払った代金との差額という考え方、品物が残っているのでこれは含まれないとする考え方とに見解が分かれています)、勤務先を辞めたことによる逸失利益、精神的打撃に対する慰謝料などがあります。特に慰謝料の具体的な金額については、不当破棄の時期や不当破棄により受けた精神的打撃の程度等、諸事情により異なります。
六 婚約の不当破棄による損害賠償請求は、家庭に関する事件として、まず相手方の住所地の家庭裁判所に調停を申し立てなければなりません。調停が成立しなかったときは、あなたの住所地の地方裁判所または簡易裁判所に訴訟を提起することになります。
弁護士 塩味達次郎