娘の離婚と婿養子縁組の解消
一 私達夫婦には、娘一人がいます。娘は学校を卒業後、勤務先の会社で知り合った男性と結婚をしたいと言い出しました。
私達は、結婚することは了解したうえで、娘に家を継いでもらいたいので、婿に入ってもらって、いずれは農業を継いでもらいたい、と提案したところ、その男性も了解してくれました。そして、娘夫婦の結婚と婿養子縁組を同時に行い、披露も済ませ、新生活がスタートしました。
二 娘夫婦の住まいは、私の家で同居することとなったのですが、私達は一階で、娘達は二階で、全てにわたって別々に生活を始めました。私達は農業を営み、娘は結婚する前から務めていた会社に毎日出勤していました。娘は結婚した後勤めをやめ、農業を手伝うようになりました。
それから10年間ほどは娘夫婦の間も、私達と婿養子との間も孫を囲んで、円満に過ごしてきました。
三 ところで、私達も高齢化してきて、農作業がだんだんつらくなってきているので、婿にも土曜日、日曜日や祭日には農業を手伝ってもらい、また少しずつ覚えてもらいたいと告げたところ、婿の態度が急変して、自分は農業を継ぐつもりはないと言われてしまいました。
このことがきっかけとなって、農業を継ぐと決心している娘と婿との間も険悪となり、夫婦喧嘩が絶えなくなりました。婿は酒を飲んでは何かと娘に暴力を振るい、そのたびに娘は孫を連れて避難してきます。
四 娘はもはや離婚しかないと決心しています。私達も娘が離婚するのであれば、一緒に離縁をできればと考えています。この場合、私達は娘の離婚とと同時に、離縁をすることができるのでしょうか。
一 離縁をするには(一)協議により離縁届を市役所に出す方法と(二)協議ができない場合には家庭裁判所に離縁の調停を申し立て調停手続の中で離縁について話し合う調停離縁と(三)調停が成立しなかった場合に裁判により離縁が認められる裁判離縁の方法があります。
裁判により離縁が認められるのは、①他の一方から悪意で遺棄されたとき②他の一方の生死が三年以上明らかでないとき③その他縁組を継続しがたい重大な事由があるとき、の三つの場合です。
二 娘の離婚と同時に離縁ができるかどうかは、どの程度養親子関係が破綻しているかにより決まります。あなた方としては、娘の結婚とあなた方夫婦の婿養子との養子縁組を一緒に行ったのだから、同時に離縁できるのではないかと思われるかもしれませんが、この二つは法律的には全く別です。また婿が養子縁組の際、将来は農業を継ぐという約束をしていたとしても、身分関係の契約に条件を付けることはできませんから、その約束に拘束力はありません。
三 娘さんの離婚が認められるかどうかは、夫婦間に離婚事由があるかどうかで決せられますが、仮に離婚が認められたとしても、離縁は離婚と切り離して判断されるため、離縁が認められるかどうかは、最終的には前記のような裁判離縁の離縁事由の有無によります。
四 あなたの場合、養子は家業の農業をやらないと言い出しているようですが、これだけでは縁組みを継続しがたい重大な事由といえるかは微妙です。従って、あなたの場合、養子の側に養親に殴打や足蹴りなどの暴行を振るうとか、重大な侮辱をするとか、虐待などの縁組みを継続しがたい重大な事由がある場合とか、老齢で働くことができない養親方を出て、扶養料を出さない悪意の遺棄の場合でないと、裁判による離縁は難しいでしょう。
尚、離婚についても協議離婚、調停離婚、裁判離婚の方法がありますので、娘さんとあなた方としては、養子と冷静に協議を重ね、協議ができなければ離婚と離縁の調停を併合して、家庭裁判所で話し合うのが良いでしょう。
弁護士 塩味達次郎