契約社員の雇止め

一 私は専門学校で調理を学んで調理師の資格を取りました。そして料理店に十年勤務した後、独立して料理店を開業しました。最初のうちは順調でしたが、段々と経営が苦しくなったので、やむなく料理店を廃業し、友人の料理店の手伝いをしたり、派遣会社に登録して派遣調理師として勤務したりしていました。

二 私は調理師として、七年前の二月初めに就職面接を受け、四月一日からある会社に就職して勤務することになりました。その会社は料理店を数か所経営しながら、近年になっで老人ホーム、老人介護施設及び特別養護老人ホームに食事提供を請け負う規模の大きい会社です。就職したと言っでも、私のように中年になってから正社員として採用しでくれる会社はありません。私は会社と、契約期間は二年間とする雇用契約を結んだ上で勤務することになりました。私は所謂契約社員、期間社員となったのです。

三 契約内容は、勤務時間、仕事内容は正社員と全く同じですが、支払ってもらえる給与は違います。月額給与は決まっていますが、賞与、昇給及び退職金はありません。雇用契約後、会社は私に就業規則を渡して、契約で定めた内容以外の事柄は、原則として全てこれに準じますと言ったのです。この就業規則によると定年は六十五歳となっていましたので、私はこれで六十五歳までは勤められると安心しました。

四 私は、会社に採用されでから、二年ごとに三回更新を重ねてきました。勤務場所は、ある老人介護施設の調理場で、私は早朝から夕方まで勤務を続け無遅刻無欠勤で今日まで来ました。介護施設での給食事業に乗り出してきて会社の経営は順調で業績は拡大基調だと聞いていましたので、私は定年まであと三年は仕事ができると安心していました。

五 ところが、今年二月にまた契約更新があるだろうと思っでいたところ、突然会社から「正社員調理師が仕事の手順が悪いので、料理店から老人介護施設に勤務場所を変更する。ついては貴方と交替してもらう。」と言われて、長年勤務した介護施設の調理場から会社の経営する料理店に異動となりました。そして、提示された契約書を見ると契約期間が六ヶ月となっているのです。私は会社に「なんて六ヶ月になっているのか」と尋ねたところ、「勤務場所が変わるので様子を見る。」との答えでした。私は、その答えにさほど疑問を感じず、六ヶ月後にはまた更新されるだろうと安易に考え契約を結びました。

六 今年八月下旬に、私は会社から、「九月末をもっで契約が終了する。更新はしない。」と言い渡されました。私はいきなりの更新拒絶に一瞬頭が真っ白になり、どうしてよいかわからなくなりました。しかし、落ち着いて考えるとどうしても納得がいきません。私は、明日から有給休暇を取りますと告げ、現在自宅でこれからの生活を考え悩んでいます。私は更新拒絶を受けてしまったので、もはや勤務を続けることはできないのでしょうか。

一 会社から正社員が解雇される場合と違って、お尋ねのような更新拒絶は、解雇とはいわず、「雇い止め」と言われるものです。あなたのように、中年になって企業に採用される場合、企業は正社員として雇用せず、契約社員として採用し更新を重ねている場合が多くあります。仕事内容は正社員と全く違わないのに待遇が正社員よりよくないのが一般的です。

二 正社員の場合は、解雇規制は厳しく簡単には解雇できません。しかし、契約社員の場合には、更新拒絶という方法で比較的簡単にいわゆる雇い止めが出来ると考えられているので、契約社員という雇用形態が出てきたのです。

三 あなたの場合、就業規則でも定年は六十五歳と定められているのですから、正社員と同様に定年まで働けると考える合理的期待があったといえます。企業の業績悪化とか、あなたの勤務能力が落ちてきたとか、納得できる事情がない限り、会社は更新拒絶ができません。あなたは、勤務先に対して、定年まで勤務を続けさせろと要求できます。あなたのような場合、あなたは裁判所に労働審判申立をすべきでしょう。

四 労働審判では、裁判所で裁判官と使用者側代表と労働者側代表の三人が審理を担当し、あなたと会社の言い分を聞いて判断をしてくれます。労働審判は労働者の立場を重視し更新拒絶によって「雇い止め」という行為が権利濫用にあたるかどうかを判断するのです。「雇い止め」が権利濫用にあたると判断されれば定年までの地位が確認されるでしょう。但し、審判の結果、あなたが会社に復帰出来ることになると、会社も困ることが多いので、審判という結論を出さずに審判中の和解という形で終わる例が多いのが現実です。定年までの勤務に応じた給料相当額を会社がどのくらいの割合で負担するのが妥当かを判断して和解案を提案し、双方が同意した場合、審判手続き中の和解が成立することが多いようです。

弁護士 塩味達次郎