夫が他所で作った子を夫婦の子として届け出ていた場合の戸籍訂正と相続関係

私の夫は、三ヶ月前に死亡しました。夫は生前、私に全財産を相続させるという自筆証書遺言を書いておいてくれました。しかし、夫の死亡届を出して戸籍謄本取り寄せてみたところ、私の全く知らない甲が、私と夫との間の長女として、戸籍にのっていました。
夫は若い頃、丙女と浮気をしたことがあり、甲は丙女の子かも知れません。私と夫との間には娘の乙が生まれていますが、乙は二女とされていました。甲には私は一度も会ったこともありません。

一 私は、自分が生んだこともない甲を私の子とは認めたくないので、戸籍上でも私の子ではないとはっきりさせたいのです。どうしたらよいでしょうか。

二 相続については、夫が書いておいてくれた遺言書のとおりにしたいのですが、どうしたらよいでしょうか。尚、乙は相続はお母さんのやりたいようにやってよい、と言ってくれています。

一 あなたが産んだことも、会ったこともない甲が、あなたの子として戸籍に記載されていたとのこと、さぞ驚かれたこととお察し致します。ご主人があなたに全財産を相続させるという自筆証書遺言をしておいてくれたのは、罪ほろぼしのつもりだったのかも知れません。

二 ところで、甲はあなたの子として戸籍上記載されているのですから、これを放置すれば、甲は嫡出子(法律上の婚姻関係にある男女から生まれた子)としての遺留分を要求してくる可能性もありますので、相続問題の先決問題として、戸籍を正しておく必要があります。
これを正すには、あなたと甲との間に真実親子関係がないという審判又は判決を得て、戸籍の届出をしなければなりません。恐らく、ご主人は、甲に嫡出子の法的地位を与えようとして、あなたに無断で、甲をあなたが出産した旨の虚偽の出生届を提出したのでしょう。
しかし、それは戸籍法上虚偽の届出ですので、真実親子関係がないことが証明されれば、戸籍を訂正することができます。

三 戸籍を訂正する方法としては次の二つがあります。
①甲を相手方として、甲の居住地の家庭裁判所に親子関係不存在確認調停を申し立て、調停手続の中で双方合意ができ、更にDNA鑑定などの事実調査をして、合意が正当であると認められれば、「合意に相当する審判」がなされ、戸籍の訂正ができます。
②もし、調停手続の中で合意ができないときは、調停は不成立となり、家庭裁判所に親子関係不存在確認の訴えを提起し、DNA鑑定により親子関係が否定されれば、親子関係不存在の判決が下さされます。判決が確定して10日以内に、戸籍訂正の届出をすれば、あなたと甲との間に親子関係はない旨、戸籍が訂正されます。

四 相続についてあなたの希望どおりにしたいのなら、ご主人が書いておいてくれた自筆証書遺言について、ご主人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に遺言書検認の申立をした上で、検認済遺言書に基づき、遺言どおり全財産をあなたが相続するという遺言執行ができます。
但し、甲は非嫡出子とはいえ、ご主人の子ですから、嫡出子である乙の法定相続分の二分の一の法定相続分があり、更にその二分の一について遺留分があります。
従って、相続関係図のとおり、甲にはご主人の全財産の一二分の一について遺留分がありますので、甲から遺留分減殺請求をされる可能性があります。その場合、全財産の一二分の一に該当する価額を支払う必要があります。

弁護士 塩味達次郎