友人が自動車を購入する際に、自分の名義を貸した人の法的責任

私は友人の甲から、甲が自家用普通自動車を購入するにあたり、甲が金融関係のブラックリストに載って自動車ローンが組めないので、名義だけ貸してくれと言われ、名義を貸しました。
甲は自動車ローンの頭金及び諸経費を支払い、自動車販売会社から車両を受け取ると、自分が契約するマンションの駐車場に駐車して、自家用に使用しています。
自動車ローンの支払いは、甲が毎月私名義の銀行預金口座にローン会社に引き落とされる金額と同額を振り込み、これが引き落とされて支払われてきました。甲はこの車両を毎日通勤に利用し、休日にはドライブに利用していました。
ところで、甲は会社の帰りに飲み屋に立ち寄り、飲酒して運転して帰宅途中、交差点において他の車両と出会い頭に衝突し、相手方車両の運転手乙と同乗者丙に重症を負わせ、甲自身も全治2週間の受傷をしてしまいました。
甲は傷の平癒の後、逮捕され警察や検察庁で取り調べを受けた後、裁判で懲役1年の実刑を言い渡され、現在交通刑務所で服役しています。
現在甲は服役中のため、私の銀行口座にローンん支払いのための振込もされず、そのため私はローン会社から支払いの催促をたびたび受けるようになり困っています。私はローンの支払いを拒否できるでしょうか。また、乙と丙は私に対し、事故によって生じた損害の賠償をせよと請求をしてきました。具体的には治療費、休業補償費、慰謝料、逸失利益そして車両の修理費です。私は甲の起こした事故により被害を受けた乙丙の賠償をしなければならないでしょうか。

一 あなたは甲がローンを組めないから名義だけを貸したのだといっても、ローン会社にしてみれば、そもそも金を貸したのは甲ではなく、あなたですから、あなたに請求するのは当たり前のことです。あなたは破産でもしないかぎり、どんなことがあっても残りのローンを支払っていかなければなりません。友人だからといって、安易に名義を貸したのですから責任は免れません。

二 問題は甲の乙および丙に対する損害賠償責任があなたにも及ぶのかという点です。車両を購入する際に甲があなたから名義を借りて購入し、その車両で事故を起こしたとき、名義を貸したあなたが責任を負うことになるかどうかは議論があります。即ち、加害車の所有名義人であるあなたに自動車損害賠償保険法第3条の運行供用責任があるかどうかです。

三 あなたの場合、甲との関係は友人関係だけです。車両の受け取り、駐車場の契約と賃料の支払いなど車両の保管、通常の車両の利用とガソリン代等の諸費用は甲が支払い、ローンの支払いも甲の振込金から引き落とされることとなっていたため、名義の貸与が明確です。あなたは車両の運行支配も運行利益も有していないことになります。

四 判例によると自動車損害賠償保険法第3条の運行供用者責任を負うかどうかは、形式的に名義が誰にあるかどうかで判断するのではなく、登録名義人になった経緯、所有者との身分関係、自動車の保管場所その他の事情を総合して判断するべきであるとしています。ローン代金やガソリン代を支払ってやったりしていると責任が認められたりしていますが、ローン設定のためや車庫証明をとるためだけの名義貸しについては否定しています。従って、あなたは乙及び丙からの損害賠償請求を免れることができます。

五 しかし、名義を貸したという倫理的な責任は残ります。いずれにしても、友人だからといって安易に名義を貸したりすると、後になって予想外の責任追求を受けることになることをよくよく肝に銘ずるべきです。

弁護士 塩味 達次郎