別居中の夫に対する子の引き渡し請求
私は、夫とは性格が合わず、離婚を前提に別居しております。別居の際、子供は三歳でしたが、夫と話し合って私はとりあえず子供を引き取って自活していけるまでの間、子供を夫に預けることにしました。ところが、夫は私と別居し、子供を引き取った途端に夫の郷里の両親の許に帰り、両親に子供の養育をまかせ遊興に耽っているばかりでなく、他の女性と半同棲状態であること、また、夫の両親は子供の面倒を余り見ておらず子供のためにならないことがわかりました。
現在、私は、子供を引き取って離婚するための生活の基盤ができあがりました。子供はもうすぐ4歳になりますが、これまで一度も会わせてもらえず、このままでは、夫の両親になついてしまい、私が母親であることを忘れられてしまいそうで心配です。そこで、夫と夫の両親に子供を返してくれるよう頼みましたが「跡取りだから」という理由で拒否されてしまいました。何とか、子供を私が引き取って離婚したいのですが、どうしたらよいでしょうか。
一 父母が婚姻中は、親権は共同して行使することになっております。但し、父母が別居した場合には実際の監護・養育は夫婦の一方が行うことになります。
二 また、父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は父母の協議で定めることになっております。但し、協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは家庭裁判所が定めることになっております。
三 あなたの場合、あなたが生活基盤を確立し、正式な離婚をする迄の間という約束で、夫に子供の看護・養育を任せたにも拘わらず、夫は自分では子供の看護・養育をせず、夫の両親に任せっぱなしで遊興三昧というのですから、夫は子を放置し養育義務を果たしておりません。にも拘らず夫側は「跡取りだから」というだけで子を引き渡してくれないというのです。
四 そこで、先ず、あなたは、家庭裁判所に①夫は、この監護養育義務を果たさないので、親権者として不適格であるから子の親権者をあなたに指定してほしい旨の申立を含む離婚調停の申立をすることです。②更に、本件のように「跡取りだから」と言って子の引渡を拒否する夫側の態度からは、離婚は合意できても親権については調停だけでは決まりがつかず離婚の裁判によって親権者を指定されるまで長期間この紛争の決着はつかないことが予想されます。そうなると、子供との必要な愛情の交流が回復困難となる恐れがありますので、①の申立と同時に「離婚成立及び親権者決定までの子の監護者をあなたとして認めてもらうための審判の申立」をすると同時に、③「子の引渡を求める審判前の保全処分」の申立をするとよいでしょう。
あなたは、(イ)離婚の裁判において、離婚が認められる可能性が高く、(ロ)あなたが親権者に指定される可能性が高い場合で、かつ(ハ)子供との必要な愛情の交流が回復困難になる恐れがあると認められれば、審判前の保全処分(子の引渡)が認められるでしょう。家裁の同種のケースで、「監護養育に不可欠な子との愛情の交流が回復困難となる切迫した危険が生じている」場合に、審判前の保全処分が認められ、それに基づき子の引渡が認められたケースがありますので、参考にしてください。⑤もし、夫と夫の両親が④の審判前の保全処分に任意に従わない場合、あなたは直接に子の引渡を強制することができます。
五 尚、更に迅速な子供の引渡を求める手続としては、あなたは、親権者ですから、人身保護法により地方裁判所に対し、現実に子を拘束している夫と夫の両親を相手方として子供の引渡請求ができます。共同親権者たる夫に対する請求が認められるためには、判例によれば「子の現在の監護状態が実質的に不当か否か、夫婦のいずれに監護させることが子の幸福に適するか」が判断基準とされていますので、遊興三昧の夫に対する請求は認められやすいでしょう。
更に、本件のような幼児を親権をもたない夫の両親が手許におくことは人身保護法にいう違法性の顕著な拘束とみなされます。監護権のない者の監護は、それ自体「拘束」にあたるとするのが判例ですので、親権者であるあなたは夫の両親に対しても子供の引渡を請求できます。
弁護士 塩味滋子