借家契約の更新拒絶と貸主の修繕義務
一 私は、一戸建て貸家を五棟所有して貸家として家賃を得ていました。賃貸するときは、期間を二年間とし期間が満了すると更新をするという方法で、それぞれ長期に亘って賃貸してきました。建物が古いので、家賃はご近所の相場よりかなり安くしていました。このたび建物が築後三十数年を経て老朽化がひどく外見上もぼろぼろになってきたので、この建物を全部取り壊して、新しくその土地上にアパートを建築して、土地を有効利用しようと考えました。そこで、私は賃借人に賃貸借期間が切れるたびに、更新をお断りして貸家から出ていってもらいました。そして賃借人が退去して空家になるたびに取り壊し、少しずつ空地にしてきました。
二 ところが、最後の一軒になった時点で、その貸家の賃借人は、私が先ほどの事情を説明して契約の更新をお断りしても承知せず、この家が気に入っているので借り続けたいと主張して居座っています。私は更新を拒否したのだから契約はなくなったと考え、更新拒絶後は賃借人が家賃を持参してきたとき受け取りを拒否したところ、法務局に家賃の供託をされてしまいました。供託が始まってから既に三ヶ月経過しています。私は何とか出て行ってもらいたいのですが、どうしたらよいのでしょうか。
三 その後、家が古いこともあって、賃借人から雨漏りがするので、屋根の修繕をしてくれと言っできました。私は契約が切れているのだからと無視していたところ、賃借人は勝手に業者を頼んで屋根の修理をしてしまい、更に賃借人から大家である私に支払請求するように言われたからと、業者から修理代の請求をされました。私は修理代を支払わなくてはならないのでしょうか。
一 貸家の賃貸借契約においては、一旦契約が締結されると期間がたとえ二年間とされていても、賃貸人に自己が建物の使用を必要とする事情や立退料として十分な支払いをするなどの事情がないかぎり。更新拒絶がみとめられないのです。その結果自動的に契約は更新されてしまい、家主が更新をしない旨の通知をしても認められません。お尋ねの様な場合、貴方としては契約期間が切れているのではないかと考えたいでしょうが賃借人との契約は自動更新されていて、賃借人に家を貸し続けるしかありません。従って、家賃も受け取らなければ、供託されてしまい、賃料不払いにはできません。貴方が土地を更地にして新たにアパートを建てて収益をあげたいと強く考えているのであれば、粘り強く賃借人と立退料について話合をし、その話合を成立させるしかないのです。
二 このような場合、明渡しを求めて裁判所に調停を申立てることもできます。しかし、賃借人は高額の立退料を要求し、賃貸人は高額の立退料を拒否し、結局調停は難航した挙げ句に不成立となることが多いのです。ですから、賃貸人がよほど強く明渡しを求める事情があり、立退料が高額でもやむを得ないと考えないかぎり調停は成立しないといえます。お尋ねの場合は、貴方にそれほど明渡しを求める事情があるわけではないので、調停成立の見込みがありません。従って、不満があっても貸し続けるしかありません。
三 屋根の修繕費については、賃貸人である貴方が負担せざるをえません。賃貸人は賃借人に、貸家を「住居」として貸し出しているのですから、雨漏りが発生すれば修繕する義務があるのです。貴方にしてみれば。家賃は近隣の相場より相当程度低く修繕費を出すと赤字になってしまうような有様でなんのために、貸家を所有しているのか判らないと考えられなくもありません。しかし、賃貸人の義務としてはやむを得ません。
四 賃貸人が屋根の修繕をしてくれないときに。賃借人が業者を頼んで修理をさせることはやむを得ないこととされています。修理代も特に高額であるなどの事情がなく通常の相場の範囲内であれば、賃貸人に負担させることは認められています。従って、貴方としては不愉快であっても支払わなければなりません。
五 貴方としては、この際考えを変えて、この賃借人に対しては、家賃の値上げを検討したり、空地を有効活用するなど長期戦で対応することを考えるしかありません。
弁護士 塩味達次郎