借家人が家族を残して家出をし、賃料を支払わない場合の対処法

私は、甲に10年前一戸建の貸家を賃貸しました。甲は、その家に妻と子供の4人で住んでいました。
ところが、甲は1年位前から姿が見えなくなり、この6か月間家賃を払わなくなりました。困った私は、甲宅に行って甲の妻乙から事情を聞いたところ、「甲は1年ほど前から他に女性を作り、その女性と同棲していて乙の元に戻ってくるつもりはない。但し、貸家の賃料は、子供二人の養育費代わりに甲が払う、との約束になっている。」とのことでした。私は「甲がこの6か月間家賃を払っていないので、困っている。」と言うと、乙は初めて事実を知って驚いていました。
しかし、乙は「夫は家賃を養育費の代わりに払うからと言って、この家を出ていったのだから、私に家賃を払う義務はない。大家さんに甲の居場所を教えますから、甲のところに行って請求してください。」と主張し、自分と甲との約束を盾にして、家賃の支払いに応じてはくれません。
やむなく、私は甲のところに行って、賃料を支払ってくれと催促したところ、甲は「契約を合意で解除してくれ。」と言い出しました。
私は、甲との間で貸家の賃貸借契約を合意の上で解除すれば、甲の妻乙に対し明け渡しの裁判を起こして勝訴できるでしょうか。

一 あなたは甲との間で貸家の賃貸借契約を締結したのですから、甲との合意で契約を解除すれば、甲の賃貸借は消滅するので、同居の家族の占有権限も消滅するのが原則です。この原則は、甲の家族が一個の家族としての集合体を作っている場合には、そのまま適用されます。

二 ところが、本問のケースのように、甲とその他の家族(乙と子二人)とが、甲の不倫が原因で別の家族集団を構成するような事態になってしまった場合には、適用されません。なぜなら、甲がもうあなたの貸家に居住する意思もメリットもないからといって、甲の他の家族の意思に反してまで貸家の賃貸借契約を合意で解除した場合、妻乙や二人の子は居住が保護されなくなり、不当な結果となるからです。

三 従って、あなたが、甲との間で契約を合意解除した上で、甲の妻乙に明け渡しの裁判を起こしても、権利の濫用又は信義則違反という理由で勝訴することは困難でしょう。

Q1で甲との合意解除を理由とする明け渡し請求が認められないとしたら、乙から貸家を明け渡してもらうには、どうしたら良いのでしょうか。

 

一 A1のような結果となった場合には、名義上の賃借人甲の地位を残された家族のうちの乙が承継することとなりますので、あなたは乙に賃料を請求して受け取れることになります。
ですから、改めて乙に賃料の支払いを請求し、応じてもらえないときは、債務不履行を理由として契約を解除の上、明け渡しを求めることができます。

二 しかし、実際上の解決方法としては、あなたと甲・乙と三者で協議の上、甲からは延滞賃料の支払いを受け、乙には明け渡しまで相当期間の猶予を与えて出ていってもらうのが、現実的解決となるのではないかと考えられます。

三 なお、乙の明け渡しを確実にするために、裁判所での即決和解という方式をとっておけば、約束の期日には確実に明け渡してもらうことができます。

弁護士 塩味達次郎