借地契約が法定更新された場合の更新料支払義務について
私方では、50年位前に父が昔から懇意だった甲に、とくに契約書も作らず土地を貸し、甲は木造の家を建てて住んでいました。地代は甲が時々、父の農業を手伝ってくれていたため、極端に安かったようです。
父が亡くなった後、その土地を相続した私と甲との間で紛争が生じ、私は甲に対し建物収去土地明渡の裁判を起こした結果、①地代は世間相場並に値上げする、②賃貸借期間を和解成立の日から20年間の平成16年12月末日までとする、③それまでの低廉な地代と適正地代との差額を、更新料名目で300万円支払う、との裁判上の和解が成立し契約を合意更新しました。但し、和解条項には、契約満了時(平成16年12月末日)に更新料を支払う旨の特約条項は入っておりませんでした。
甲は、平成16年12月の賃貸借期間終了の前から「更新して欲しい」と申し入れて来たので、私は「更新料を600万円払ってくれなければ更新しない」と通知しておいたのに、甲は更新料を払わないまま期間満了後もその土地に住み続けています。私は甲に更新料を払ってもれえるでしょうか。
一 あなたの今回の更新料の支払請求は認められません。何故なら、あなたと甲との土地賃貸借契約は、法定更新されており、法定更新の場合、借地人には更新料支払義務はないからです。
二 この結果は、20年前の合意更新のときに更新料名目で300万円を受け取ったあなたとしては納得し難いかもしれません。
しかし、旧借地法は、借地権が期間満了により消滅した場合において、借地権者(本件のケースでは甲)が契約の更新を請求したときは、建物が存する限り、前契約と同一の条件でさらに借地権を設定したものとみなしていますから、甲の更新請求があれば更新された借地権の存続期間は更新の時から20年となるのです。
三 そして、このような法定更新の場合、最高裁の判例でも「宅地賃貸借契約における賃貸期間の満了にあたり、「賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するとは認められない」とされ、更新料支払の慣習は否定されました。
従って、今回のあなたの更新料の支払請求は認められません。
四 以上の結論は、20年前にあなたが甲から更新料を受領したことと矛盾するように見えるかもしれません。そこで、20年前の更新と今回の更新のどこが違うかというと、20年前は合意更新、今回は法定更新という違いがあるのです。
20年前の更新料の授受は①あなたのお父さんと甲との特別に懇意な関係により決められた世間相場より極端に低廉な地代と適正地代との差額と補充する意味があったこと、更に②契約を合意更新したことによる効果であったと考えられます。即ち、更新料について法律上の規定は全くないにも拘わらず、世上当事者間で更新料の支払いを約束するのはなぜかというと、借地人にとっては更新後の契約期間を確保でき、かつ更新拒絶されずに地主と円満にやってゆけるという明渡紛争回避料としての効果が期待できるというメリットがあるからです。
五 甲の場合、20年前に明渡紛争を回避し合意更新できるというメリットにより更新料を払ってくれたのでしょうが、その和解条項には次の契約満了時つまり平成16年12月末日に更新料を支払う旨の特約をしておりませんし、仮に更新料支払特約があったとしても、今回契約は法定更新されていますから、あなたとしては、今回甲に更新料を請求することはできません。
弁護士 塩味滋子