借地上の建物の無断増改築と借地契約の解除

私は、貸地を沢山持っており、平成3年以前から各々の借地人との間で建物所有を目的とする賃貸借契約をしております。その契約書には「賃借人が賃貸人の承諾を得ないで借地上の建物の増改築をするときは、賃貸人は催告を要しないで賃貸借契約を解除できる」との特約があります。そこで、次のような借地人に対し、無断増改築を理由に無催告で契約を解除して、土地を返してもらえるでしょうか。

借地人甲は、①居宅兼アパートの建物の外壁のモルタルのひび割れを塗装し、②玄関の戸を木造からアルミサッシ格子のガラス戸とし、③風呂場のコンクリートのたたきをタイル張りとし、④縁側と窓の木製の戸を全てアルミサッシに取り替えてしまいました。

 

賃貸借契約は平成12年より前に締結したとのことですので、借地法の適用があることを前提に回答します。Q1の場合、借地人甲の外壁のひび割れの修繕は、建物保存のため通常予想される修繕ないし補修工事ですから、借地人は自由に行えます。仮にその修繕ないし補修工事により建物の命数が多少延びたとしても契約解除理由となるほどの無断増改築に該りません。
また、木製の戸をアルミサッシに変えたり、風呂場をタイル張りにする工事は単なる部分的改修工事の域を出ませんから、貸主たるあなたの承諾を要する増改築の工事には該りません。従って、あなたはこれらを理由に契約を解除することはできません。

借地人乙は、私に無断でその居住用建物(木造二階建居宅1階17坪、2階5坪で家族だけ居住)の一部の根太及び2本の柱を取り替え、2階5坪を取り壊して新たに2階を14坪に増築して、5室を作り、2階より直接外部への出入り口として階段を作り、アパート用居室として他人に賃貸するように改造しました。

 

この場合、乙のした増改築工事によっても住居用普通建物としては前後同一でありますし、当該工事はその土地の通常の利用上相当であり、賃貸人に著しい影響を及ぼさないと考えられます。その結果、賃貸借契約における信頼関係を破壊するおそれがあるとは認められません。最高裁の判例でも、同種事案において、「右無断増改築禁止特約に基づいてした地主の解除権の行使は信義誠実の原則上許されないとして、地主の解除権行使を制限しました。従って、あなたは、乙に対し契約を解除することはできません。

借地人丙は、3年分も家賃を滞納した為、私から、丙に対し建物収去土地明渡の裁判を起こしたところ、裁判所において、①丙は引き続き土地を賃借する、②丙は私の同意を得ないで建物の増改築をしない、③もし、丙が私に無断で建物の増改築をしたときは、何らの通知催告を要しないで、賃貸借は当然解除となるという裁判上の和解が成立しました。
ところがその後、丙は、建物が朽廃して住んでいなかった借地上の建物の主要構造部分である柱・土台・屋根の増改築工事を行い、すでに朽廃した建物を朽廃しない状態にさせてしまいました。私は丙にその工事の中止を申し入れましたが丙に無視されました。
私は丙の無断増改築工事を理由に本件土地賃貸借契約は当然解除されたとして、建物収去土地明渡の裁判を起こしたいと思いますが私の主張は認められるでしょうか。

丙のした建物工事は保存工事の程度を超えていますので、増改築工事にあたります。丙の改築があなたに対する信頼関係を破壊するおそれがあるかどうかを検討すると、以前の賃料滞納による訴訟の裁判上の和解において無断増改築禁止の特約をしたにも拘わらず、丙は特別の必要もないのに、あなたに無断で、あなたの工事中止の申し入れも無視して改築工事をしたのですから、一連の丙の行為は地主であるあなたに、著しい影響を及ぼし、あなたとの信頼関係を破壊するおそれがあると考えられますので、あなたの主張が認められる可能性は高いでしょう。

弁護士 塩味滋子