交通事故により高次脳機能障害となった場合
一 私の息子は、会社員として働いていましたが、休日に自転車でコンビニへ買い物に出かけた途中、大型トラックに衝突され脳挫傷、外傷性くも膜下出血などの重傷を負い、直ぐに救急車で病院に運ばれ手術を受け、6カ月入院して一命はとりとめ退院しました。
相手の運転手は、刑事事件として業務上過失傷害罪として起訴され、処罰されました。幸い加害者車両には、任意の損害保険が付されていました。
二 事故後一年以上経ち、息子は外見上は元のとおりとなりました。しかし、やはり完全には回復していません。特に頭に強烈なダメージを受けているため、もの忘れ(野菜や果物の名前や、親しい友人の顔も名前も忘れてしまう、鍋を火にかけたことも忘れてしまう)、複数の用事を頼んでも一度に理解できず、次に何をやったらよいかわからないなどの集中力や、遂行能力の低下がひどく、更に感情の起伏が激しくなり、周りの状況に異常に敏感になって、突飛に行動して大声を上げたり、ちょっとしたことにも興奮し、また被害妄想が激しくなり、息子の前で息子の日常生活の状況を医師に話したりすると、帰宅後、私が息子の悪口を言ったと言って怒り、家族に暴言暴力をふるい、しゃべり方は特に家族にはいつも喧嘩腰となって、これでは日常生活も平穏にはできない状況です。
そのようなわけで、勤め先も退職せざるを得ませんでした。
三 私は息子の代理人として、保険会社に保険金を請求しているのですが、保険会社は入通院治療費、入通院期間の慰謝料、入院雑費、入院交通費、入通院期間中の休業損害のみを、損害として認めてはくれますが、前記のような息子の外見上見えない、いろいろな精神的障害によって生じた後遺症による逸失利益や、後遺症による慰謝料などを損害として認めてくれません。
私は、息子のこれからの生活を考えると、仕事に就くことも不可能ですから、普通の人のように人生を送ってゆけるとは考えられません。ですから、保険会社の言い分には、到底納得できません。私は息子のためにどうしたらよいでしょうか。
一 交通事故により息子さんは、頭部に重大な損傷を受けた結果、脳外傷による高次脳機能障害の後遺症を負っていると思われます。
二 脳外傷による高次脳機能障害とは、本件のケースの息子さんのように、事故による脳外傷の結果生じた、記憶力や認知能力の減退や人格の変化などの症状が残存する結果、受傷前には可能だった就労や日常生活の為の行動が不可能または困難となり、更には社会復帰自体も不可能または困難となる障害をいいます。
三 この脳外傷による高次脳機能障害は、外見では身体機能が残存しているとしても、脳自身の損傷により発生した大脳の深部の損傷により、高度の痴呆や著しい判断力の低下や情動の不安定などの障害を負った、交通事故被害者を救済しようとする考え方により、認定される傷病名と言えます。
交通事故による脳外傷による高次脳機能障害として特徴的な傾向として、物忘れ、ものごとに注意や集中ができない、複数の行動や計画的行動ができない、大声を出す、自己抑制ができない、家族やまわりの者に対し、攻撃的な言動や暴言暴力などの攻撃性、幼稚な言動、被害妄想などの人格変化などがあります。
四 本件のケースでも、息子さんにこれからの特徴が該当するので社会復帰は難しく、ほぼ常時見守りが必要な状況と考えられます。
そこで、息子さんには高次脳機能障害について理解のある脳神経外科の専門医による診断を受け、①「自動車損害賠償責任保険後遺症診断書」と②「神経系統の障害に関する医学的意見」を詳しく書いてもらい、それに加えて同居の家族の③「息子さんの日常生活状況報告書」を前記の特徴的な傾向をふまえて詳しく記載し、これら①②③を加害者の任意保険会社を介して、自賠責調査事務所に提出すれば、後遺障害等級の事前認定を受けることが出来ます。
ご質問の息子さんのケースでは、立証資料によっては自賠責後遺障害別等級表別表第一の二級一号に該当する可能性が考えられますので、息子さんについて後遺障害による慰謝料や逸失利益や将来の介護費用についても任意保険会社に請求できます。
保険会社がこれらの請求に応じなければ、示談交渉は決裂となりますので、加害者を被告として後遺障害による損害賠償請求額をも、交通事故による損害額に加えて、地方裁判所に提訴することになります。
弁護士 塩味達次郎