交通事故により親族が脳に障害を受けた場合の損害賠償請求

私の兄は、会社からの帰宅途中、車道と区別のある歩道を歩いているとき、暴走してきた自動車に衝突され、外傷性クモ膜下出血、脳挫傷、大腿骨骨折、全身打撲の大怪我をさせられました。
兄と私は、二人だけの兄弟で、兄は事故時50才で、妻子はおらず独身です。兄はこの交通事故により、脳にダメージを受け緊急手術を受けましたが、それまでの自立した生活は不可能となり、弟の私の顔も分からなくなってしまいました。勿論私との会話もできません。
加害者は、家庭の主婦で買物からの帰りで、事故当時考えごとをしていて前方をよく見ていなかったとのことですが、自賠責にも、任意保険にも加入しています。
兄の交通事故による損害賠償請求の問題はどうしたらよいでしょうか。

一 お兄さんが、交通事故により大怪我をされたとのこと、さぞご心痛のこととお察し致します。しかし、ただ嘆き悲しんでいるだけでは、現実に起こっている治療費支払いの問題や、働けなくなったことによる損失の問題などを処理できません。

二 そこで、本件の場合に、取るべき手段方法などについて検討します。
①まず、解決すべき問題として病院に対する治療費・入院費の支払いの件が緊急課題です。加害者は、交通事故が発生したことを直ちに任意保険会社に通知する義務がありますから、治療費・入院費は、加害車両にかけられている任意保険の保険会社から病院に直接支払ってもらえるよう、加害者の方から任意保険会社に手続きをとってもらう必要があります。
②次にそれ以後の、加害者との示談交渉が問題となります。被害者であるお兄さんは、ご自分の損害賠償請求権という財産の管理能力ひいては、判断能力も失ってしまったようです。
そこで、お兄さんちを代理して、示談交渉や、入院などの手続きをする法定代理人が必要です。お兄さんは独身ですので家庭裁判所に申立をして、あなたをお兄さんの成年後見人に選任してもらう必要があります。そうすれば加害者側(任意保険に示談代行サービスの特約があるときは、事故直後から任意保険会社が担当します)との示談交渉を成年後見人となったあなた自身で行うこともできますし、さらにはあなたから弁護士に示談交渉を依頼することもできますし、交渉が決裂した時は、損害賠償請求訴訟を提起してもらうこともできます。

三 損害賠償請求を行うには、損害額が確定することが必要です。
そのためには、身体の損害が完治することが必要です。但し、治療をしていくうちにある段階で、これ以上治療しても完治せず後遺障害として残ることがあります。即ち、精神的、身体的な毀損状態がほぼ永久的となる場合です。これを症状固定といい、その時点で、後遺障害として、認定されます。

四 症状固定までの損害としては、前記の治療費や入院費の他に次のようなものがあります。

イ、休業損害 これは事故により仕事を休業せざるを得なくなったことによる損害の填補です。これは、事故前の給与所得の源泉徴収票や、給与明細などで立証できます。

ロ、傷害慰謝料 これは、傷害を受けたことによる精神的苦痛に対する賠償です。これは受傷から症状固定までの治療期間中の入通院日数や、身体のどの部分の怪我か、怪我の程度が重篤か否かによって、金額が算定されます。
また、加害者側に故意や酒酔い、著しいスピード違反、赤信号無視などがあれば慰謝料の増額の理由となりえます。

五 後遺障害による損害 お兄さんに後遺障害が残った場合の損害としては、以下のものが考えられます。

イ、逸失利益 事故に遭わなかったならば、定年(60歳)まで働け、退職金も得られた筈であり、定年後は、健康であれば、67歳まで働き、それまでの半額程度の給与収入を得ることができたであろう収入を失った損害です。損害額は、労働能力をどの程度失ったのか、将来の昇進や失業などの可能性などを勘案し、事故前の現実収入を基に中間利息を控除して計算します。

ロ、また、後遺障害を蒙ったことによる精神的苦痛も後遺障害慰謝料として請求できます。

ハ、またお兄さんは、他人との意思疎通も出来ず、常時介護を要する状態となったのであれば、将来の介護料だけでなく将来の介護雑費(紙おむつなど)も請求できます。

ニ、その他、診断書料等の文書料や成年後見開始審判申立手続費用も事故との因果関係がありますから請求できます。

弁護士 塩味 達次郎