不倫相手の女性に財産の半分を遺贈するとする遺言書の効力

私の父は、私の母である妻と私達子供四人がありながら、五年前に夫と死別した女性と不倫関係となり、日常は自宅に居ながら、週末から翌週初めまで泊まりに行ったり、旅行に行ったりして暮らしていました。私たちは不倫関係をなんとかやめさせようとしましたが、父は聞き入れず、母はあきれて愛想尽かしをしてしまっていました。
そして父は女性宅で脳梗塞を発症し、一年の入院の後死亡しました。病院には女性が付き添っているため母は行かず、私達子供は看病の為、連日通いました。死亡後四十九日を過ぎてから女性から父が書いた遺言書があると言われびっくりしてしまいました。
そして、女性から家庭裁判所に遺言書の検認申立てがされましたので、母と私達は遺言書の開封と内容の確認に立ち合いました。遺言書の形式は整っていて問題はないとのことです。遺言書には「女性に全遺産の半分を遺贈する」と書いてありました。母と私達兄弟はその内容にショックを受けてしまいました。
母と私達は、父が遊んである間も家庭を守り仕事にうち込んできたのに、父が老年になって短期間過ごしただけの女性に全財産の半分をとられてしまうのは納得できません。母や私達は遺言書のとおり遺産分けをしなければならないのでしょうか。

一 相続には法定相続(法定相続分による遺産相続)と遺言相続(遺言による遺産相続)がありますが、遺言がなければ法定相続を基準として、相続人全員による話し合いによる協議分割が行われています。
他方、相続財産と言えども個人の財産であるという考え方を前提として遺言による相続も近年増えてきています。但し、遺言による相続も配偶者や近親者の生活の安定を考慮した遺留分による制限を受けることは当然です。遺留分とは、このように、遺言によっても侵害することができない遺産に対する相続人の権利の割合です。

二 ところで、ご質問は、父上が婚姻関係にあり、日常生活をしている母上を差し置いて、他の女性と不倫関係を重ね、遺言書に不倫相手の女性に財産の半分を贈与すると書いてあることをどう考えるかという点です。
これは、不倫関係を前提とした遺言書による贈与をどう考えるかに係っています。つまり、このような遺言書を公序良俗違反として無効と考えるかどうかです。過去の裁判例によると、このような遺言が有効か無効かの判断は遺言書の形式的な判断だけでは不十分で、遺言に至る経緯やその内容も含めて判断されています。

三 その判断基準としては、
①婚姻関係にある夫婦であっても、別居期間が長く、実質的に破綻していると見られるかどうか。
②不倫とはいえ、長期の同居期間があった後に、遺言書が作成されたものかどうか。
③遺贈が不倫関係の維持継続を図るためのみの目的で行われたものかどうか。
④遺贈部分が妻や子の生活を脅かす程度に相続財産の大きな部分を占めているかどうか等の総合判断によって遺言書の有効無効が分かれます。

四 実際上はその有効無効の判断は極めて難しく、ケースバイケースであり予測は困難と言えます。従って、このような遺言書が出てきたら、速やかに専門家の手に委ねた方が良いと思います。
弁護士 塩味達次郎