不倫相手の夫からの慰謝料請求
私は3カ月ほど前、行きつけの居酒屋のカウンターで、隣り合わせになった甲女と親しくなりました。甲女には夫と子供もいて、パートタイマーとして働いているようです。この居酒屋で何度か一緒に酒を飲むうちに、私は甲女が夫とうまくいっていないので悩んでいると言われ、相談にのったりしているうちに、私は甲女と肉体関係を持ってしまいました。
すると間もなく、彼女の夫乙男から私の勤務先に電話連絡があり、私と甲女の不貞について話し合いたいので、例の居酒屋に来てもらいたい、と言ってきたのです。やむなく私は居酒屋に行ってみると、甲女と乙男とが居て、三人で話し合いをすることになりました。
乙男は、甲女が私との関係を認めていると述べた後、「お前と女房とのことを証明できる写真も撮ってある。お前のせいで、俺の家庭はめちゃくちゃになった。慰謝料として1週間以内に1000万円を支払え、そうすれば、この件はなかったことにしてやる。」と言われてしまいました。
私は、それまで家庭も職場も特に問題もなく順調に来たのに、乙男にこのことを持ち出されたら家庭も壊れてしまい、職場も失ってしまうのではないかと不安になり、その場で、相手の言うとおり「1週間以内に1000万円を支払う。」と言う念書に、署名指印をしてしまいました。
そして、1週間以内にサラ金業者を回って、何とか300万円だけを用意し、乙男にこれを差し出して、「残りは分割で支払うので了解してくれ。」と申し出ると、乙男は了解してくれました。
しかし、私はこれまでの金策につかれてしまいました。私はこれからも約束どおり、残りの金を分割で支払わなければならないでしょうか。
一 あなたのお尋ねにお答えする前に、結論を出さなければならない大きな問題があります。
まず、今回の原因となった、あなたと甲女との関係が表面化したとき、あなたの家庭と職場にどのような影響が生じたとしても、あなたとしては、これを受け止めるという覚悟がなければ、この問題は解決しないと考えられるのです。
二 そもそも乙男のあなたに対する要求は、脅迫まがいといえます。あなたが早期に問題が表面化してもやむを得ないと決心して、法的な解決策を図っていれば、妥当な解決が図られたと考えられます。
三 一般的に見て不貞行為の慰謝料としては、現在の裁判例から見て1000万円という数字は、異常に高額と考えられます。しかし、あなたが問題が表面化することを嫌って、高額でもやむを得ないと考えているとなれば、この額でも特に違法不当というわけではなく、結局合法と認められることになり、残りの700万円も支払わなくてはならなくなります。
四 あなたとしては、この問題の解決のために、家庭や勤務先に混乱が生じ、場合によっては、家庭や勤務先を失うことが起こりうるとしても、これを受け入れると決心すれば、問題はほぼ乗り越えることができます。したがって、以下には、あなたがその決心をしたことを前提に回答します。
五 あなたは乙男に対し、乙男との合意が、乙男の強迫による意思表示によってなされたものであることを理由として、この意思表示の取消しをすべきです。そのうえで、裁判所に債務不存在確認の訴訟を起こすのがよいでしょう。
六 話はややずれますが、ことが表面化した以上、あなたの妻は甲女に対し、不貞行為を理由として、損害賠償を請求することができます。乙男との訴訟と並行して、この点も全面解決と言う点でよいと思われます。
弁護士 塩味達次郎