一時使用目的で貸した土地の上にプレハブを建てることを承諾した場合の返還請求

一 私は幹線道路に面した土地500平方メートルを所有しています。ある土木会社から資材置場として、この土地を少しの間貸してくれとの申し入れを受けました。
その当時はこの土地を特に使う必要性もなかったので、自分が使いたいときに返してもらえれば、それまで貸しておいてもよいと思い、貸すにあたって、自分が使いたいときに返してもらうには、どうしたらよいかと考えていたところ、知り合いの不動産業者から、「一時使用の土地賃貸借契約書」にすればよいとのアドバイスを受けて、貸すことのしました。
そこで私は土木会社と一時使用土地賃貸借契約を結びました。賃貸借期間は5年で権利金等はなく、地代は近隣の地代とほぼ同額です。

二 土木会社は貸して二年後に、「作業員の汗をふく為水道を引かせてくれ」「電気を引かせてくれ」「事務所がないとどうしようもないので、据え置き式のプレハブ事務所を置かせてくれ」と言ってきました。私はいずれもやむを得ないものと考え承諾しました。しかし、この時、私は何となく不安を感じて、土木会社から「建物は移動できる簡易なものに限る、地主に迷惑は一切かけない。」という念書をいれてもらいました。

三 その一年後、土木会社は更に「プレハブ式の作業員の宿舎を作らせてくれ」と言ってきました。私は契約は一時使用となっているし念書もあることだから特に心配することはない、私が必要になったら返してもらえるだろうと考え、これも承諾しました。契約はその後二回にわたり、前契約と同一条件ということで更新されて、現在に至っています。賃料の未払いは全くありません。

四 最近、自動車関連の会社に勤務していた息子が会社を興して同様の仕事をしたいので、この土地を使いたいと言い出しました。そこで、私は土木会社にこの土地を返してくれと申し入れました。すると、土木会社は絶対に返さないと拒絶してきました。私の考えでは一時使用の土地賃貸借であり、念書もあるのに、土木会社がこの土地を返せないと言い出したことに納得できません。私はこの土地の返還を受けられないのでしょうか。

一 あなたが締結した土地賃貸借契約は、当初は資材置場という目的でしたから、借地借家法の適用がないものでした。しかし、契約して三年後に作業員宿舎を建てることを承諾した時に、建物所有目的の土地賃貸借契約に変わっていますから、土木会社に土地の返還を求めることは出来ません。

二 土地の賃貸借はその土地上に建物所有を目的とするか否かでその効果が全く違います。又、一時使用の土地賃貸借契約はその目的が明確かつ客観的に一時使用を示すものでなければ認められません。例えば、①建物の建て替えのため建築の完成までの仮の事務所とか、②一時的な催事会場とか、選挙事務所など、客観的に一時的な利用が明らかなときのみ、一時使用の賃貸借と認められるのです。ご相談のケースは前記のような明白かつ客観的な一時的な使用とは認められません。

三 従って、この契約は十一年前に作業員宿舎を建てることを承諾したときから、借地借家法の適用のある建物所有を目的とする土地賃貸借契約となっております。契約期間を五年として二回更新したとのことですが、借地借家法では30年より短い期間は賃借人に不利な特約なので、無効となります。従って、契約期間は30年とされますので、期間満了まであと19年ありますから、今この土地を返してもらうことは不可能です。さらに、期間満了の際にも、あなたが更新を拒絶するには、正当事由がなければ更新を拒むこともできません。その際どうしても返還をもとめるというのであれば、かなりの立退料を提案して、土木会社と交渉するしかありません。それでも土木会社が拒否すると建物収去土地明渡訴訟を提起して、あなたの自己使用の必要性の方が高いと判決で認められないと、明渡を受けるのは難しいでしょう。

四 このように、建物所有を目的とする土地賃貸借は一度貸したら長期間返してもらえなくなるということから、借地借家法は定期借地権という制度を設け、一定期間が経過したら借地権を消滅させることにより、土地の利用を促進しようとしています。短期間土地は貸したいが、不安があるという場合、専門家に相談することをおすすめします。

弁護士 塩味達次郎