一人住まいのお年寄りの世話をしていた人が、そのお年寄りが遺した遺産を受け取ることができるか

一 私は、自宅の近くに住んでいた一人暮らしのお年寄りの男性甲さんを、十年位前から、お世話をしてきました。甲さんは、よそから建売の一軒家を買って転居してきたのです。私は甲さんと家がすぐそばで、毎日顔を合わせているうちに、段々親しくなりました。
私は、甲さんが一人暮らしで家事全般について苦労しているようなので、ちょっとした衣類のほころびの直しをやってやったり、料理ができあがると一人分ですが届けてあげたりして喜ばれていました。そうして、私はいろいろとお世話をしてきました。
甲さんは二年ほど前から身体が弱くなって病気がちとなり、病院通いをするようになりました。病院へ行くときは、いつも私が運転する車に乗せて連れていってあげました。こういうときには甲さんは私にいつも感謝してくれていました。
そして二ヶ月前には甲さんはとうとう入院してしまいました。私は連日のように見舞いに行ったり、元気づけたり、何か頼まれるとその用事を片付けてやったりしました。しかし、甲さんは一ヶ月前に病院で亡くなってしまいました。甲さんは、いよいよ亡くなる直前私に向かって、「今まで色々お世話になった。ありがとう。」と言ってくれました。しかし、遺言などは一切していませんでした。

二 私は、甲さんのお世話をしていたとき、特に何かを期待していたわけではなく、いろいろ不便不都合をしているように見えたので、助けてやろうという気持ちだったのです。しかし、今になって思うには、甲さんが残した家や土地、そのほか預金や貯金などを考えると、相当多額の財産が残されているのです。
私は、友人から身寄りがいない人のお世話をしていて、その人が死亡した後、何らか請求すると、残された財産のうちからかなり多額のお金を受け取れた、という話を聞きました。
そこで、それなら私も甲さんの残した財産のうちいくらか貰えるのではないかと思います。私はどうしたら、甲さんの残した財産から相当額を貰えるのでしょうか。

一 本件では、一人暮らしをしていて、相続人がいるかどうかわからない人が死亡したとき、相続はどうなるのかが、問題となります。相続人がいるかどうか、明らかでないときは、民法により相続財産は法人とされます。その場合、利害関係人は家庭裁判所に相続財産の管理人の選任を申立て、相続財産の管理人を選任してもらいます。相続財産の管理人は、相続財産の清算をし、更に、戸籍等から相続人を探し、相続人が戸籍上は存在していないとき、家庭裁判所は六ヶ月以上の期間を設け、相続人の捜索の公告をします。
この相続人の捜索の期間中に相続人が現れないときは、相続財産清算後の残余財産の帰属の問題が起こります。

二 ところで、お尋ねのように死亡した人と生前交流があり、かつ面倒をみた、お世話をした人の場合、相続財産に対して、なんらかの請求権があるのでしょうか。
民法は、被相続人と生計を同じくしていたか、療養監護に努めたなど特別の縁故があり、相続人が不存在であることが確定してから三ヶ月以内に申立てをすれば、家庭裁判所は、請求により特別縁故者として相続財産の全部又は一部を与えることができるとしています。
しかし、相続財産の管理人が相続人の捜索をして、相続人が判明したときは、相続財産はすべて相続人に帰属し、相続人以外の者は何ら権利がないこととしています。

三 従って、先ずは相続人の有無が問題となります。もし相続人が存在していることが判明すれば、特別縁故者の存在は一切無視されてしまいます。
次に、相続人が存在しない場合に、初めて特別縁故者から家庭裁判所に請求ができるわけですが、どの程度の請求が認められるかが、問題となります。
あなたのご主張の通りとしても、被相続人の意思を推測して判断される点から、被相続人がありがとうという感謝の言葉を口にしていたとしても、それ以上に何らか財産の一部を贈与するなどの言葉をのべていないからです。又その事実を証明するために、遺言までは整っていなくとも、何らかの被相続人によって書かれた文書などがないと、特別縁故者の認定を受けることは困難です。あなたの場合には、どの程度療養監護に努めたかが判断基準とされるでしょう。

四 相続人が存在せず、特別縁故者も存在しないことになれば、結局残された財産は国に帰属することになります。

弁護士 塩味達次郎