シェールガス投資詐欺

一 私は1ヵ月前のある日、自宅にいずれも私の知らない証券会社A社、B社、及びC社から次々と電話を受けました。電話の内容は皆一様に「D株式会社から書類は届いていないか。」というものです。私は覚えが無いので、「届いていない。」と答えていました。

二 その後、実際にD株式会社から私宛に、「新会員募集に関するご案内」と題する書面、立派なパンフレット、会員権申込書類、申込む場合の本人確認書類の作成説明書等が送られてきました。このパンフレットによると、同社の目的は、シェールオイル採掘、掘削機器の設計・開発及び掘削技術・掘削方式の研究開発等となっており、原油を殆ど外国に頼っている我国にとって極めて有望な事業であることや同社が今後躍進するであろうことが記載されていました。

三 私は、これらの書類を読み、かねてから電話を受けていた三社のうちのA社に、D株式会社から書類が届いたことを伝えると、同社の社員が「あなたがD株式会社の会員権八〇口(一口十万円)を申し込んでくれ。会員権代金の支払期日までにはA社があなたの銀行口座に必要な金を振込むので、その金をD社に振り込んであなたが会員になった直後に会員権をA社に移して欲しい。そして、A社の指示どおりに動いてくれればA社はあなたに謝礼として二十万円を支払います。」というのです。

四 そこで私はD社に会員権八〇口の申し込み手続きをしました。申し込みをすると申込金の支払い期限が十日後の午後二時までと決められていました。ところが、その支払い期日当日の午前中にA社の部長から電話があり、「あなたの口座に金を振込む予定だったが、どうしたわけか、現在通帳・カードが使えないので振込ができない。社員が直接持っていくから、それまでの間あなたがD社と交渉して待ってもらってくれ。」というのです。やむなく私はD社に事情を伝えたところ、D社は「それではとりあえず直ぐにレターパックで十万円だけ送っでくれれば、時間を午後二時から四時まで待ちます。」というのです。私は直ぐにレターパックで十万円を送り、A社の部長にその旨伝えました。しかし、結局A社から金は届きませんでした。

五 私はこのままA社から金がこなかった場合大変なことになると不安になってD社に電話して、もし会員権の申し込みをキャンセルした場合どうなるのかと尋ねたところ、「違約金として申し込み口数の五〇パーセント即ち四百万円を請求する。」と言われてしまいました。現在A社とは連絡が取れなくなっでいます。

六 私はこうなるまですべて電話で済ませており、A社とD社の誰とも会っていません。私は心配になって改めてA社やD社を調べてみよしたが、どうもはつきりしたことは判りません。私は違約金を払わなければならないのでしょうか?

一 あなたは、新聞やテレビ報道で、先日シェールオイルが日本で試掘され埋蔵量も推定で今後数十年分のエネルギー資源となる可能性があると言うニュースを聞いていたため、電話相手の言葉を信じて申し込みをし、更に急かされるままに十万円の送金をしてしまったと考えられます、

二 結論から言うと、あなたは詐欺にかかったとしか言いようがありません。シェールオイルのニュースはまだどうなるか全く不明です。しかし、詐欺を考えている者は、このニュースを利用して早速パンフレットを作りこれを送って、電話をかけまくり、あなたのような、人を信じやすい人から金を騙し取っているのです。事実はあなたが存在すると信じた会社の実態は、殆どないのではないでしょうか。

三 あなたは、電話で相手の言葉を真に受け、D社の会員権の購入申し込みをし、支払期限の迫った中で十万円をレターパックで送金させられてしまったのです。ですから、送金した事実をあなたは証明できません。

四 そもそもあなたは真実D社の会員権を購入する意思がなかったのですから、契約は錯誤により無効といえます。しかし、D社はあなたのそういう意思を知らなかったのであるから、契約は有効であり、違約金の請求権があると主張してくることが考えられます。

五 このようなケースの場合、殆どA社とD社がひそかに共謀している場合が多いと言えます。しかし、民事上の請求をされた場合、その立証は困難です。あなたとしては契約に至った経緯や急かされて十万円を送金させられた事実を主張し徹底的に争うべきです。残念ながら今となっては十万円を送金したことさえ裁判上証明できません。D社は何らか書類を送ってもらったと主張することが考えられます。従って十万円を取り返すことは難しいと考えられますが、違約金の支払いは拒否できると思われます。事実関係の経過と取引の不目然さが明らかだからです。

六 D社からの民事上の請求に対しては。あなたが一人で解決しようとして交渉を行ったりしないことをお勧めします。かえって事態を複雑化させ、あなたが不利な立場に陥れられる恐れがあります。できるだけ早く専門家に相談することをお勧めします。

七 なお、警察にも相談に行ってください。類似の相談が数多く寄せられていれば警察が捜査を始めてくれます。

弁護士 塩味達次郎