【改正相続法】配偶者居住権について
改正相続法で配偶者居住権が認められたと聞きましたが、その概要を教えてください。
配偶者居住権とは?
配偶者居住権とは、平成30年の改正相続法により配偶者である相続人に認められた権利で、配偶者相続人が居住建物を相続しない場合でも、原則として終身の間、家に居住し続きられるように認められた賃借権類似の権利です(改正相続法1028条以下、法制審議会の民法(相続)部会では「長期居住権」と呼ばれていましたが、「配偶者居住権」と名称が改められました)。
従来は、相続人である配偶者に、これまで被相続人と居住してきた建物に相続開始後も居住権を認めようとすると、配偶者相続人にその建物や土地を相続させるほかありませんでした。しかし、一般に土地・建物等の不動産の評価額は多額になる場合が多いため、配偶者相続人はこれまで居住してきた不動産以外の相続財産、特に預貯金等を相続できない、あるいは少額しか相続できないケースた多くなり、相続後の生活費用が捻出できなくなるという不都合がありました。
例えば、相続人の遺産として、配偶者相続人と同居していた不動産(評価額5000万円)と預金5000万円があり、相続人としては配偶者と子供が一人いたと言うケースで、配偶者相続人に不動産を相続させると、預金5000万円は子供が相続することになり、配偶者相続人は相続後の生活資金に困るということになります。
最高裁による救済判例
この点従来の相続法のもとにおいても、配偶者相続人を救済しようとする最高裁の以下のような判例がありました。
最判平成8年12月17日
共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居していたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものと言うべきである。
しかし、この判例で認められる配偶者相続人の権利は、「少なくとも遺産分割終了までの間」認められる権利に過ぎず、遺産分割終了後も存続するものかどうかは明らかではありません。また、遺言により当該不動産が第三者に遺贈されたような場合や、被相続人が配偶者相続人が被相続人の死後に当該不動産に居住することを否認していたような場合に、配偶者相続人が保護されるのかについても不明です。
改正相続法による解決
そこで、改正相続法は、あらたに「配偶者居住権」と言う制度を創設し、配偶者相続人の保護を図ることとしました。この配偶者居住権は、①遺産分割、②遺言(遺贈)、③家庭裁判所の審判によって認められます。具体的には、上記の例で、配偶者に配偶者居住権(評価額2500万円)と預金のうち2500万円、子供に配偶者居住権の負担付の不動産所有権(評価額2500万)と預金2500万円を相続させることが可能になります。